住むに値するまちづくり
毎日新聞No.141 【平成14年11月12日発行】
~健康づくりで満足度向上~
地方分権の時代を迎え、今や、どの地方自治体においても個性あるまちを創り出すことが求められている。これまで地方自治体は、国の強力な指導のもと、ナショナル・ミニマム(国民の最低生活水準)の確保に務めてきた。その結果、緊急時の対応も考慮した日常生活に支障の無い住民の安全な生活空間、いわゆる「住みやすいまち」を創ることに、どの地方自治体もある程度成果を挙げてきた。しかしこれからは、地域住民のニーズに沿った行政施策の展開を図り、住民が気持ちよく豊かに暮らせ「住んでいてよかった」と積極的に評価できる「住むに値するまち」の創造が必要とされる。
「住んでいてよかった」と思えるまちづくりの要素とは何であろうか。都市施設ばかりを優先させ、外見上はすばらしく見えても、住んでいる人たちが充足感を感じないのなら「よいまち」とはいえない。また、まちづくりが一部の人のためのものであってもいけない。生活者の視点でまちづくりをとらえ、老いも若きも万民が、充実して生き生きと生活できる場であることが重要である。そこで、どの人にも共通な関心事である「健康」、あるいは地域に根差した「スポーツ」にスポットを当て、地域の個性を創出してはどうだろうか。
今般、健康はどの人にとっても人生において最大の関心事であろう。レジャー白書2001の報告によると、余暇市場は、不況やリストラなどの社会的背景から平成8年をピークにマイナス成長を続けている。スポーツ関連市場においても、全体としてはマイナス成長であるが、中高年や女性の健康志向に応えたフィットネスクラブ市場は好調な伸びを示している。また最近は、高齢者の筋力トレーニングの効用が注目されている。寝たきり防止、あるいは老人医療費の抑制の効果を期待して、「高齢者の筋力向上トレーニング事業」が厚生労働省の補助事業に決まり普及しそうだ。
さらに、世界中で実施されている「チャレンジデー」というスポーツイベントは、まさに地域に密着した動きであり、徐々に盛り上がりを見せている。これは、人口規模がほぼ同じ自治体同士で、午前0時から午後9時までの間に15分以上継続してスポーツや運動をした「住民の参加率」を競い合い、敗れた場合は対戦相手の自治体の旗を庁舎のメインポールに掲揚するというユニークなルールによって行われるものである。カナダを発祥として、日本でも1993年から毎年開催されている。今年は、全国82自治体が実施し、88万人が参加した一大スポーツイベントである。ここで大事なことは、勝敗の結果ではなく、チャレンジデーが住民の健康づくりに寄与したのか、イベントとして行われたスポーツや運動を住民が楽しんだかどうかである。この点、カナダでは、このイベントを11年間継続して行った結果、週2回以上スポーツや運動をする人が5%から35%に増え、住民の健康増進に貢献している。
このように日々の生活に密着し住民の関心の高い「健康づくり」を通してまちづくりを進めていけば、住民の満足度の向上につながり、そのことを通じて定住人口の増加、事業者数の増加、引いては税収の増加が期待され、「住むに値するまち」の創造は可能になると思われる。
(山梨総合研究所 研究員 田辺 満)