視点を変えて商売を
毎日新聞No.143 【平成14年12月 3日発行】
~売れる仕組みづくりへ~
地方の中心商店街を中心に、多くの中小商店が売上不振により閉店を余儀なくされている。その理由は、郊外の大型小売店の増加により顧客が奪われたためであるといわれている。このように大変苦戦を強いられている商店が多い中で、中心商店街でも、また、商店におおよそ適していない立地でさえも、成功している商店が結構ある。商品が売れないで苦しんでいる商店は、これまでとは視点を変えて商売を考えていく必要があるようである。
日本が戦後高度成長してきた過程では、消費者にとって一番の欲求は生活の必需品を得ることであり、それは家電の三種の神器のように商品に対する欲求であった。このような時代には、例えば冷蔵庫を店頭に置けば売れたのである。もちろん現在でも、生活の必需品・日用品は買われていく。しかし、消費者がこうした商品を買う場所は、今、スーパーやホームセンター、大型家電店などの大型小売店になっている。画一的だが、中小商店に比べて価格が安く、立地も買い物に便利なのがその理由であることは言うまでもない。
価格や利便性では勝てない中小商店は、従来と違った別の次元で商売する必要に迫られている。この別の次元を考えるとき、消費とは何か、消費者は何を買っているのかをあらためて問い直す必要がある。つまり、消費者は商品を購入するという行動で何を満たそうとしているのかという動機付けの部分である。ユニークで実践しやすい理論に定評のあるマーケティングコンサルタントの小阪裕司氏によると、それは「ワクワクする体験」であるとしている。あいまいな言葉なので、もう少し具体的な言葉に置き換えると、気づき、気晴らし、感動することである。人は日常生活の中でもこうした体験を求めており、例えば、OLや主婦がとりあえず買物に出かけたり、サラリーマンがお酒を飲みに出かけたりすることもこうした動機付けからである。この考え方でみると、「ワクワクする体験」が期待できる店は多くのお客を集め、繁盛していくことにつながっていく。
「ワクワクする体験」ができる店とは、特別な商品を並べる店ではない。実際、こうした視点で成功している店をみると必ずしも他と違った商品を扱っているとは限らない。そこには売れるしくみづくりがされているのである。商品そのものを売るのではなく、お客様が商品を買うことにより生活に別の次元を与えてくれるような体験を売るしくみづくりがされているのである。手法は、様々でありここで取り上げることはできないが、店舗の作り方にしても、DMにしても、従来ある販売手法をもう一度、別の切り口から見直して、そして実行することが大切である。
(山梨総合研究所 主任研究員 一條 卓)