環境分野の先進県に
毎日新聞No.145 【平成15年 2月25日発行】
~新知事は積極的実践を~
2003年1月、東京臨海部で高さ70メートルのデンマーク製の風車2基の組み立てが始まった。
風力発電用のもので3月末から稼働する予定である。場所は、お台場の南側にあたる東京港の中央防波堤内側埋立地である。東京ディズニー・リゾートや羽田空港から風車を見ることができる。国内には2002年12月末現在約450基の風車があり、山形県立川町などでは地域のシンボルとなり、「町おこし」にも一役買っているが、都市部に建つのは初めてである。
東京都は、「温暖化対策に取り組む東京のシンボルにする」としている。風力発電設備容量は2基で合計1700キロ・ワットになる。年間で約800世帯分の電力をまかなう計250万キロ・ワット・アワーを発電する。国内で1980年代から試験研究用として導入が始まった風力発電設備容量は、2002年3月現在では31万キロ・ワットである。政府の温暖化対策推進大綱では、2010年度末までに、これを約10倍の300万キロ・ワットにするとしている。
注目を浴びているのは都市部ばかりではない。人口わずか1万5000人の鹿児島県川辺町では、ごみの焼却灰に含まれる猛毒ダイオキシンを化学反応で無害化する新技術を使った国内初の処理施設を建設し、昨年12月2日に稼働を始め、全国から視察が相次いでいる。町清掃センター内にある施設の処理能力は1日1.5トン。焼却炉から出る灰を処理し、無害化した灰はレンガとして再資源化する。建設に数十億円かかる1200度以上の高温燃焼方式のガス化溶融炉ではなく、2000年3月に町が大学や企業と共同研究を始め、実用化した化学反応方式により、既存の焼却炉を使いながら数億円の追加投資で済んだ。
ひるがえって、環境首都を掲げるわが山梨県をみると富士山、富士五湖、南アルプス、八ヶ岳といった地域のシンボルには事欠かないが、環境先進県としての全国的な認知度はあまり高いとはいえない。豊かな自然に囲まれているがゆえの甘え、危機感のなさが温暖化対策への積極的な取り組みにまで至らない背景にあるのではないか。新しく選ばれた知事に望むことは、環境分野における先進的な取り組みの実践である。手をこまねいて、何もしないでいることは「環境後進県」のそしりを受けるばかりではない。今、そこにあることが当たりまえのように思っている水、緑、自然を失うことに繋がるのである。
未来を、夢を感じさせる環境首都にふさわしいシンボルを創出する最後の機会を逃してはならない。太陽光発電、廃棄物発電、バイオマス発電、風力発電、電気自動車・燃料電池車・天然ガス自動車の導入、家庭用燃料電池の普及など選択肢は豊富にある。何かひとつ実現し、環境分野の先進県として脚光を浴び、国内外から多くの人や企業が視察に訪れるようになれば、名実ともに県民が胸を張って誇れる「環境首都やまなし」となるのである。
(山梨総合研究所 主任研究員 新井 純)