地域ぐるみで社会実験を


毎日新聞No.147 【平成15年 3月 4日発行】

~本県の「環境首都」実現へ~

 昨年暮れの12月14日、山梨県環境科学研究所主催「富士山の地下水の現状と今後の問題」と題するフォーラムに参加した。このフォーラムは今年3月大阪・京都・滋賀を会場に開催される第3回世界水フォーラムのプレフォーラムとして開催されたものである。

 富士山には一体どのくらいの水が涵養されているのか。何年前の水が湧き出しているのか。静岡大土名誉教授の推計によると、その量は、降水量や柿田川や裾野の湧水量から一日あたり529万立方メートル、年間19億立方メートルと推計される。気の遠くなるような量である。しかも、酸素や水素の同位体調査などから湧き出すまでに10~15年かかっているというから富士山にはこの10~15倍の水が蓄えられていることになる。特にその水は玄武岩の中を通ってバナジウム濃度が高く血糖値を下げる水として注目されている。
 一方、富士常葉大井野教授によると、岳南地域では工業用水などによる揚水量の増加から吉原市街や田子の浦地域では地下水の塩水化が進行しているというのである。水資源をどのように活用するか、ペットボトルの国内シェア5割を占める山梨にとっては大きな課題である。大気の汚染や山麓一帯への廃棄物の不法投棄は10年、15年後に現実の問題となってくるだけに子や孫に付けを回すようなことがあってはならない。

 さて、山梨県は「環境首都」を掲げている。国母工業団地(24社6000人)のゼロエミッションの取り組み、残飯のコンポースト化と桃農家との連携、紙などの分別収集による再利用、固形燃料化、化学物質の処理プラントなどへの取り組みは大きな反響を呼び全国から年間10万人を超える視察団が見えている。まさにビジターズインダストリーのひとつのシーズでもある。しっかりとした哲学を持って取り組めばそれは交流のシーズになるということである。
 例えば、多摩川、相模川、富士川の源流の町村では小水力発電によるエネルギー自給のまちづくりといった実験を、明野や須玉ではソーラー実験を、また果樹や野菜農家と連携したコンポースト化やバイオマスの実験は地産地消を推進するうえからも大切である。街中へバスや乗用車の乗り入れを制限し町を歩いてもらおうと交通社会実験を実施している湯布院や鎌倉には視察団がたくさん見える。ハイシーズンの昇仙峡などで実験したらどうだろうか。

 石油の世紀から水の世紀へと言われる中で環境への取り組みは必然であり、各種のプラントやバイオ・酵素などの新たな産業創出にも繋がっていく。 基礎研究が重要であることは言うまでもないが、世界的に「環境首都」として注目されているドイツのフライブルクやハイデルベルクの取り組みなども参考に地域ぐるみで社会実験に取り組みたいものである。

(山梨総合研究所 専務理事 早川 源)