経営の自主、安定に期待


毎日新聞No.148 【平成15年 3月11日発行】

~中国への企業進出〝独資〟主流に~

 日本企業による中国進出は、鄧小平の「南方講話」があった92年から95年にかけて急増した後、一旦、わが国の景気低迷長期化を反映し減速した。その後、ここ2~3年、中国のWTO(世界貿易機関)加盟などをきっかけとして、再び加速しており、業種も製造業から小売業や外食店チェーンといったサービス業まで、幅広い分野に及んでいる。

 中国進出の要因としては、生産コスト削減、13億人の人口を擁する巨大市場への売込みや、さらには、中国における部品産業の集積の進展による生産拠点としての魅力の増加があるが、このところの中国進出急増の一因として、受け入れ側の中国の地方政府(省・市など)が企業誘致に熱心になっていることがあげられる。
中国では、国有企業改革によって生ずる大量の失業者や、都市部に比べ所得水準が低い農村部からの出稼ぎ労働者を吸収するため、高水準の経済成長を今後も維持していく必要がある(昨年暮れの中国共産党第16回大会では、2020年まで年平均7%の経済成長目標が打出された)。中国の地方政府は、それぞれの地域内で、一定の経済成長率を実現するため、外資の誘致に積極的になっている。地域内に外資の生産等の拠点が出来れば、建設投資、雇用増加による消費拡大、税収増加など経済効果が望める。地方政府幹部にとっては、経済成長目標の達成度が悪いと、責任問題になりかねず、それだけ、外資誘致に熱心に取り組まざるを得なくなっている。

ところで、日本企業の中国への進出形態(現地法人設立)としては、大きく分けると、合弁(中国企業との共同出資)と独資(日本企業の100%出資)があり、従来は中国側の規制により合弁が大半であった。これまで、中国進出で失敗が多いのは合弁の方である。価値観や判断基準の違いから、合弁の中国側パートーとの間で頻繁に意見対立が生じ、円滑な合弁経営が困難になるのである。意見が合うパートナーの選定は、経験上非常に難しい面があり、中国での合弁事業を経験した日本企業の経営者からは、出来る限り独資での事業展開を勧めるとの声がよく聞かれるところである。

 こうした中、中国では独資設立についての規制緩和が進み、また、外国企業による会社設立の認可権限の、中央政府から地方政府への委譲が進んだ。これにより、日本企業による独資の設立がこのところ急増している。また、地方政府は企業を呼び込むため、設立申請の審査に要する時間を大幅にスピードアップさせている。
中国国内での企業間競争の激化が伝えられており、中国での事業の成功は容易ではなかろうが、独資での進出が主流になりつつあることについては、経営の自主性・安定性の確保につながるものであり、新たに中国進出を計画中の日本企業としては、考慮しておく必要があろう。

(山梨総合研究所 調査研究部長 波木井 昇)