これからの地域産業政策


毎日新聞No.151 【平成15年 5月13日発行】

~オンリーワンで発展を~

 最近、オンリーワンという言葉が様々な場面で使われている。社会経済のグローバル化が進展する一方で、ローカル(地域)の重要性も認識されてきている今日、これからの地域の産業政策を考えていく上でも、大切なキーワードといえる。

 日本では地方分権が進んでいないこともあり、従来の産業政策は国主導で進められてきた。このため、地域は国による産業の国際競争力強化のために必要な政策資源の配分を受け入れる場であった。そこでは、特定産業の誘致や、ハイテク産業志向で、インフラ整備を重視し、企業城下町に例えられる地域のリーディングカンパニーを中心とした産業振興政策が盛んに行われてきた。こうした政策は、日本の高度成長を支えてきたという点においては成功したといえるが、各地域が主体的に産業を育成する経験やノウハウは蓄積されてこなかった。
 近年、地域に集積されてきた産業群を次のステップに発展させて、地域内の産業間をつなげることと内発的創造性を重視することで、特色があり、かつ、他地域に比べて優位な産業集積を育てようという動きが各地で見られるようになってきた。これは、産業クラスター(クラスターは“房”の意味)と呼ばれるもので、具体的には、地域の中小企業を中心としたネットワークを形成してそれぞれが機能を補完し合ったり、大学や研究機関の研究開発成果を実用化するために技術移転したりすることで、生産性の向上やイノベーションを誘発することにより、従来の企業誘致型ではなく内発型の産業発展を目指すものである。
 近年のこのような動きは、経済産業省が関連した政策を強力に推進しているためではあるが、もともと欧米の地域の産業発展をモデルにしたもので、米国のシリコンバレーやテキサス州オースティン、英国のケンブリッジ等が有名である。こうした地域では、産業集積の特色を生かした発展のために、地方政府が多くの役割を担ってきた。
 現在、経済産業省の産業クラスター計画としては、全国で19のプロジェクトとして進められており、ほかにも、同省の施策を受けて、各地域で産業集積を発展させる取り組みが数多く進められている。また、構造改革特区も地域の自立した政策を支援する側面を持っている。このように、国は計画の促進者としての種まきに止まり、地域が主体となって産業政策を進められる環境が整いつつあるといえよう。

 地域としても国の示すモデル的な政策を“金太郎アメ的”に実行するのではなく、この環境を生かし、自治体や大学・研究機関、産業支援機関、企業がもう一度、地域の産業集積の特色や立地条件等を見直して、主体的でオンリーワンの産業展開を図っていくことが求められる。そのためには、全産業横断的な視野を持つことや企業間あるいは地域間の連携を強化すること、そして的を絞った産業政策などを進めることが必要であろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 一條卓)