ものづくり
毎日新聞No.152 【平成15年 5月27日発行】
~こだわりを見直せ~
山梨におけるブドウ栽培の歴史は、平安時代にもさかのぼり、行基という高僧が伝えたといわれている。その歴史たるや1,200年である。世界的な古都京都に匹敵する歴史を持っているのである。
先日、勝沼町のワイン醸造会社にインタビューに行った時のことである。自分が山梨県に生まれていながら、ブドウやワインづくりの歴史と文化について、あまりにも無知だったことに粛然となった。
案内をしてくれたソムリエの方は、京都出身の方で、ワインづくりへの思いについて熱心に語る姿がとても印象に残っている。また、彼を山梨まで連れてきた醸造所の社長さんも、甲州ブドウへのこだわりと情熱を感じさせる方であった。
この醸造所で造られたワインは、今年パリで行われたコンテストで、日本在来のブドウを使ったもので唯一銀賞に入賞している。
地域に根ざした文化というものは、一朝一夕にできあがるものではない。その地域での風土によって、長い時間をかけて、まさに醸成されるものである。
ブドウの栽培を行う上での土づくりから始まって、雨の量や、日照時間、気温、湿度と幾多の要素のうえにブドウが成熟し、さらに熟成という、人間の感性と、手間暇をかけてワインが作られる。こうしてできあがったワインは、試行錯誤された知識が知恵へと昇華したものであり、その知恵と、土地の持つ風土との結晶であるといえるのではないだろうか。
日本の職人的なものづくりは、日本各地の地場産業として脈々と受け継がれている。たとえば京浜工業地帯の町工場には、指先でミクロン単位の違いを感じ分けることができる職人さんがいる。宇宙開発など最先端の技術は、今もこうした技術の上に成り立っている。
伊勢神宮が数十年に一度建て替えられるのは、技術の伝承といった意味を持っている。これは、わが国が、ものづくりをいかに大切に考えていたかを表している。
ものづくりはひとつの文化である。長期低迷する経済状況の中、わが国は、こうしたこだわりを持ったものづくりを、もう一度見直すことが大切ではないだろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 広瀬信吾)