まちづくり


毎日新聞No.155 【平成15年 7月 1日発行】

車は本当に不可欠か

 この4月に甲府に移り住み、最も驚いたのは、街路にひしめく車の多さである。2000年(平成12年)には、山梨県民一人あたりの乗用車数は0.66台で、これは全国第3位であった。

 便利な車も、増え過ぎればさまざまな問題を引き起こす。例えば、交通事故である。近年シートベルトの義務化などにより、事故死者数は減少傾向にある。しかし、県内の事故発生件数、負傷者数は、ここ10年おおむね増加傾向にあり、昨年の負傷者数はついに1万人を超えた。このうち県民の負傷者は8,686人であったので、県民約100人に1人が事故で負傷したことになる。
 車の増大は、渋滞をも生み出す。渋滞は、経済的損失はもちろん、大気汚染などの環境破壊を引き起こす。これからの季節、冷房の効いた車は快適だが、車の排熱は、暑さの厳しい甲府盆地をさらに暖める。
交通事故や環境問題を引き起こす車の増加に対し、行政は公共交通機関の利用を促す政策をとってきた。しかし、渋滞に行く手を阻まれた、空席の目立つ路線バスをみれば、政策の成果には疑問符がつく。
今後の更なる車の増加は、渋滞の激化などにより車の利便性を低下させる。そろそろ私たちは、「車は便利」という固定観念から脱却し、本当に便利で快適なまちづくりを目指すべきではないだろうか。
例えば、自転車の活用である。私は自転車で通勤しているが、平地の多い甲府の街は、自転車が思いのほか便利である。
 ところが、自転車道のない甲府の街を、人や車に交じりながら自転車で走るのは、危険であり、不快でもある。これは、車中心のまちづくりが、自転車や歩行者の安全性や快適性を置き忘れてきた結果である。
甲府には、歩道も設置できないほど狭い対面二車線道路が多い。これを一方通行とし、一車線を自転車と歩行者に割り振ることで、自転車と歩行者の安全と快適性を確保したらどうだろう。それにより、車から自転車へ乗換える人も多いはずだ。
 
  車に固執することなく、自転車や公共交通機関など、多様な移動手段があることこそ、便利で快適な社会の証である。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)