はぎれアートコンテスト


毎日新聞No.156 【平成15年 7月 15日発行】

~ されど「はぎれ」・・・・~

 富士の麓(ふもと)は古くから「海気」とか「甲斐絹」という先染めの織物産地として知られている。ネクタイ、ショール、婦人服地、ウエディング地、カーテン地、座蒲団地、傘など様々な布地や製品が作られている。高品質で何でも作れる産地だが中間材ということや最終製品がなかったという理由からブランド化できないと言われてきたが、最終製品が揃っても依然としてブランドの確立は進まず、下請けに甘んじている。こうした中で、郡内地域産業振興センターは、昨年度「Fujiはぎれアートコンテスト」をスタートさせた。審査委員長はクリエイティブディレクターで日本デザインセンター最高顧問の梶祐輔氏である。就任は、県内外の芸術家や文化人の出会いの場となっている茶房・ギャラリー「ナノリウム」の経営者中植氏の尽力による。

 昨年度は試行段階で積極的なPRもしなかったが、応募者数は204人(うち県内161人)応募点数431点にのぼり予想をはるかに越える反響と作品のレベルの高さに関係者は驚いている。同センターへの来館者数も、2001年度14万8千人から2002年度には15万7千人と6.4%伸び、販売額は12%も増加した。また、全国のファッション系専門学校から布地についての問い合わせが相次ぎ、杉野服飾大学の生徒たちが生地を求めて同センターを訪れた。目を輝かせる彼らに富士の麓は布地の宝庫に見えたのであろう。

 今年度は「はぎれの再生」をテーマに5月から応募をはじめた。手芸関係の全国8誌が取り上げるなど評価も高まった。ギリシャの諺(ことわざ)に「歴史を作るのはロゴス(論理)ではなく、パトス(情熱)とエロス(人間愛)である」とある。このアートコンテストには展示会のような華々しさはないが、下請けではなく全国の消費者やクリエーターに創造の「場」を提供したことは間違いない。このような運動を生み出すこと自体この地域の文化力である。たかがはぎれコンテストと思うかもしれないが、この運動が産地に新たな息吹を与え、富士の麓に布地の宝庫としての大きなブランドを確立していくのではないかとひそかに期待している。

(山梨総合研究所 専務理事 早川源)