地域ブランド戦略


毎日新聞No.158 【平成15年8月26日発行】

民間の発想を行政に

 県や市町村などの公共部門の意思決定や行動メカニズムに民間企業の発想を取り入れようとする動きが盛んになってきた。物やサービスの付加価値や競争力を高める上で重要な役割を持つ「ブランド」を、行政のさまざまな分野に導入する取り組みもその一つである。

 私たちの日常生活において、ブランドとの接点は多く、シャネルやグッチなどのファッションブランドやトヨタ、ソニーといった企業ブランドはあふれかえっている。商品やサービスにそれほど差がなく価格も横並びだとすると、消費者はより強いブランド力を持ったものへと向かう。強いブランドは企業などのイメージアップに役立つばかりでなく、長期的な利益の源泉となり、企業経営の求心力を高める効果を持つ。ブランドを打ち立て、維持していくことは、企業の命運を左右するといっても過言ではない。
 このようなブランドの効果が期待される行政分野は、実は少なくない。最も端的にあらわれるのは特産品販売や観光宣伝の分野である。消費者(=顧客)との間に長期的に揺るぎない信頼関係(=きずな)を築き上げることで、他の地域との差別化を図り、地場産品を有利に販売したり、地域を繰り返し訪れるファンを増やしていくことが可能になる。
 近年、このような分野ごと、商品ごとのブランド戦略に加え、地域全体を傘のように覆う「地域ブランド」を磨き上げる重要性が増している。それは、個々の商品やサービスに統一的なシンボルやイメージを与えることによって、顧客とのコミュニケーションをより容易にする効果を持つばかりでなく、地域のアイデンティティーを確立する上でも大きな効用を発揮する。住民が自認する地域アイデンティティーと顧客が求める地域像が一致することにより、一層円滑なコミュニケーションが成立し、強いブランドが育まれる。

 現在、県内の多くの地域で市町村合併に向けた論議が進められているが、地域アイデンティティーを統合し新たな地域ブランドを形成することは、対外的な地域戦略上も、対内的な求心力を高める上でも極めて重要である。

(山梨総合研究所 主任研究員 山本盛次)