大停電から学ぶ事


毎日新聞No.160 【平成15年9月23日発行】

安定供給の視点を

 今年、海外で二つの大停電が発生した。6月に発生したローマを中心とするイタリアの大停電と、8月に発生したニューヨークを中心とする大停電である。二つの原因を探ると、日本の電力業界が抱えている課題に対して、学ぶべき点があるように思われる。

 イタリアの大停電は、猛暑による電力需要の急増と雨不足による水力発電の発電量の低下が直接的な原因とされている。しかし、その背景には、脱原発を国策として取り組んできたことで、自国で消費する電力の一部を近隣のフランスやスイスからの輸入に頼ってきたことがある。つまり、原発に代わるものがないにもかかわらず、脱原発を進めたことにより電力不足に陥ったことが、一つの要因となっているのである。今夏、首都圏大停電が懸念される事態となった日本の原発問題では、脱原発の議論も盛んに行われているが、日本は電力の約3割を原発で賄っているだけに、長期的なビジョンで原発の位置付けを考えていく必要がある。
 一方、ニューヨークを中心とする大停電は、アメリカ北東部とカナダにかけての一帯で、約6,000万キロワットという規模(今夏の首都圏の最大電力と同程度)の停電であった。原因は未だに究明されていないが、北米電力信頼性協議会は、オハイオ州内の送電線のトラブルをきっかけに大停電が始まったという見解を明らかにしている。しかし、その背景には、規制緩和路線に基づく電力自由化の進展がある。自由競争の下では、競争に打ち勝つためにコスト削減が優先されてしまい、事故防止や安定供給に対する投資が積極的に行われないという状況に陥る危険性がある。米科学アカデミーの専門委員会は、1年以上前に、老朽化した電力供給インフラへの投資が不十分であるため、大停電が発生する危険性を指摘していた。日本では、電力自由化へ動き出しているところであるが、競争原理のみを追求する自由化では、大きな過ちを犯す危険性がある。

 競争原理の働く市場を創設していく中にも、安定供給という視点を考慮していく必要がある。

(山梨総合研究所 研究員 岡田 実)