高齢者市場戦略


毎日新聞No.163 【平成15年11月11日発行】

真の顧客志向を実践

 高齢になると「関節や骨の萎縮、硬直、屈曲」「手足の動く幅の縮小」などで、「関節が曲がりにくい」「機敏に動けない」といった体の変化が生じる。すると「老いは足元から」と言われるように「膝やつま先が上がらない」「転びやすい」といった足腰の衰えが顕著になる。転んだ拍子に骨折などの大けがをして、寝たきりになる場合も少なくない。

 高齢者にやさしい安全・安心な靴を製造し、3年後には米国で自社製の高齢者用靴の販売を始めるのは、香川県にある従業員33名の徳武産業である。創業は昭和32年、当初はスリッパやバレーシューズを製造していた。高齢者用の靴に取り組み始めたのは、香川県地域産業技術改善補助制度の適用を受けた平成6年であった。同社は高齢者の足の変形や好みなどに対応し、左右でサイズの異なる靴や多品種の靴などを提供する徹底した顧客志向で、国内において一大ブランドを築き上げた。米国進出でも、この顧客志向を貫く。既に米国の養護施設や病院などで高齢者に対して自社製靴の履き心地などの調査を実施した。今後は現地の医師にも助言を求め、日本人とは異なる米国の高齢者に合うサイズなども検討し商品開発を進めるという。

 国内のみならず海外でも注目されている高齢者市場を見据え、高齢者向けの商品を手がけている企業は少なくない。しかし、同社のように自社製品を顧客一人ひとりの身体に合わせている企業はどのくらいあるのだろうか。山梨県の高齢化率は長寿世界一である日本の平均よりも高いので、県内企業は先端の高齢者市場の多種多様なニーズを肌で感じることができる。加えて、県内企業には、これまで培ってきた高い技術・生産力と厳しい経済競争の中で身に付けた低コスト体質がある。これらの特長を活かし、いかにして高齢者一人ひとりにぴったり合う製品を提供し、併せて、きめ細やかなアフターサービスを提供していくのか。こうした視点から高齢者市場戦略を策定し、実践することが重要である。

(山梨総合研究所 主任研究員 新井 純)