産業観光


毎日新聞No.164 【平成15年12月 9日発行】

大きな可能性持つ

 近年、「産業観光」が少しずつだが、注目され始めている。とはいえ、この言葉自体を知らない方や知っていてもその意義となると分からないという方も多いのではないかと思う。

 産業観光とは言葉の通り、産業を観光することである。工場見学や企業視察ツアーのことと思われる方も多いと思う。これも産業観光の一つではあるが、これだけでは、本来の楽しむ観光としてメインとなりえず、観光振興や地域振興の観点からも効果が少ない。今、産業観光の対象として注目されているのは、現代の産業よりも「産業遺産」、特に明治期以降の「近代産業遺産」である。
 現代日本の産業は、明治期の産業近代化が原点であり、その後、奇跡的な発展を遂げてきた。この原点を支えてきた明治期以降の工場、機械器具や、それらによって造られた製品や建造物などは、その役割を終え次第に近代産業遺産となってきている。それらは全国各地にたくさん存在しているが、約百年の時を経て、急速に進む技術革新とともに廃棄されつつある。産業発展の歴史を物語るこうした遺産は、文化的にも歴史的にも大きな意義を持つものであり、それらを保存することは、転換期にある日本の産業社会の中で重要な役割を持つ。
 しかし、単に文化財としての保存では、経済的にも、社会的にも持続性に欠ける。活用が必要である。経済面では、今、日本の明治期以降の製品や建造物などは、和と西洋が融合した「非日常」を感じられる観光資源として人気が高く、観光振興における可能性がある。また、社会的な側面においては、二十世紀の産業の歴史に対する認識を高めることにより、地域の誇りやコミュニケーションが醸成される。特に子供たちが、現代につながる過去の産業の歴史を学ぶことは、自らの将来を考える大切な機会であり、感動を与えることもできる。

 「産業観光」は、観光立国をめざす我が国において、そして観光立県をめざす山梨県においても、観光資源としての大きな可能性を持っている。

(山梨総合研究所 主任研究員 一條卓)