目に見えない社会資本整備


毎日新聞No.168 【平成16年2月24日発行】

人と人を結ぶ役割

 社会資本の整備というと、建物、道路や交通機関、水道や電気の供給施設など「目に見える社会資本」を連想しがちだが、社会資本のなかには「目に見えない社会資本」もある。これは、人と人、人と社会資本を結びつける役割を果たしているネットワークのようなもので、目に見えない。しかし、今は、「目に見えない社会資本」の充実が求められているのではなかろうか。

 例えば、スポーツ施設を例にとると、その建物自体は「目に見える社会資本」であり、その建設には従来から大きな関心が払われてきた。しかし、「目に見えない社会資本」である、スポーツ施設を運営するNPO(非営利組織)や、その施設を拠点として活動する地域スポーツクラブのあり方も重要だと考える。「目に見えない社会資本」には、自治会などの住民自治組織、NPO、ボランティア活動などの市民活動、生涯学習組織、様々な生活相談活動なども含む。経済同友会と総合研究開発機構が平成15年5月にまとめた報告書では、「目に見えない社会資本」を「社会関係資本」とし、その整備の重要性を提言している。 
 安心して市民生活を送るうえで防災対策は不可欠だが、災害時に、自治会・区・組といった住民自治組織が十分に機能するか否かは、被害規模を左右することとなるだろう。公的機関がマヒした時に、町内会等が重要な役割を果たしたのは、阪神淡路大震災の教訓であった。
 医療・保健・福祉分野等の相談業務やコーディネート業務も、重要な「目に見えない社会資本」と考えられるので、充実が望まれる。制度がきめ細かく整備され、利用者の選択の幅が拡がる程、利用者と制度を結びつける総合的な相談業務・コーディネート業務が、益々重要となる。

 また、市町村合併の議論の中で、地域内分権などが検討されているが、旧市町村という枠にとらわれず、住民自治組織やNPO、ボランティア活動などの市民活動が、どのようなエリアで成立し、機能するのかを議論していくことも重要である。

(山梨総合研究所 研究員 荻原 宗)