原点回帰の取り組みを


毎日新聞No.169 【平成16年3月9日発行】

富士山環境保全

 このところ、富士山の環境保全に向けた新たな取り組みが、各所で動き始めている。例えば、一般の登山者がごみを拾いながら登ってゆく姿を見かけることがあるが、こうしたことは登山者の環境保全意識の高まりを表している。山小屋で発生したごみの持ち降ろしや、環境への負荷が小さいトイレの設置も始まった。また、近年入山者の増加やマナーの悪化などから荒廃が懸念されている青木ヶ原の樹海を保全するため、地元NPOや行政の連携も動き始めている。こうした新たな萌芽が、多くの人の協力により、大きく育つことが望ましい。

 ところで、4月から県庁に観光部が新設される。観光部の新設は、観光立県へ向けた県の意気込みの表れととれる。同時に、富士山保全業務が、森林環境部から観光部へと移管される。観光資源という視点で富士山を眺めれば、その持続的な利用のためには、入山者数のコントロールや、環境保全と両立する観光の普及といった新たな政策の必要性が見えてくる。富士山保全業務を担当する新生観光部には、富士山の環境保全に軸足を置いた観光政策の展開を望む。
  また昨年、富士山は世界遺産の国内候補地の選考に漏れたものの、世界遺産登録を望む声は相変わらず強い。もちろん私も、その中の一人である。しかし、世界遺産には、環境保全活動のみならず、山麓部の土地利用のあり方など、合意形成が困難な課題もある。こうした課題は、ごみ問題のように時間をかければ、確実に成果が上がるというものではない。世界遺産も大切であるが、まずは足元の環境保全を確実に推進することが、何より重要となる。

 富士山の自然的・文化的価値は、世界遺産に登録されているか否かを問うものではない。大切なのは、わが国の最高峰として、また貴重な自然の宝庫として、過去から受け継いだ富士山を、そのままの状態で、あるいはより美しい状態で、未来へと受け継いでいくことである。まずは、純粋に環境保全を目的とした、原点に立ち戻った取り組みが必要である。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)