消費行動
毎日新聞No.173 【平成16年5月11日発行】
~客の満足が職人・プロの糧に~
さる5月9日は、母の日であった。また来月20日には父の日と、親へ感謝する行事が続く。筆者も子を授かって以来、親心に対する感謝の気持ちが日々増している。さて、多くの商店が母の日や父の日にあわせたセールを行うが、一部で昨今の不況の影響を引きずり、厳しい商売が続いているという。消費が伸び悩む原因として、しばしば売り手側の問題が指摘されるが、買い手側にも多少の責任があるのではなかろうか。
ここ数年、ものづくりが再評価されている。この「ものづくり」という語には、品質の追求という意味が含まれる。ものづくりの現場、たとえば飲食業界では昨今、回転寿司やファストフードなど大規模チェーン店の台頭により、すし職人やコックの職が脅かされてきた。確かにこれらチェーン店のコストパフォーマンスの高さや顧客本位のサービスなど、消費者の満足を主眼に置く経営手法には学ぶべき点が多い。しかし、一部消費者による安さや便利さに対する過剰なまでの要求が、見えないところに手間隙をかけるプロの生き残りを難しくしている。
さて、安さなどが求められる一方で、安全・安心に代表される消費者の価値観の変化により、近頃、品質を重視するプロの存在が見直されるようになった。「匠」や「技・業(わざ)」などと呼ばれるプロの仕事は、暗黙知(tacit knowledge)に分類される。暗黙知とは、個人の経験に深く依拠し、自分ではわかるものの他者に言語で伝えることが困難な知の概念である。職人などプロの仕事は、「機微」や「間」など、センサーによるデータ捕捉や制御機器によるコントロールが困難なため、まだまだ機械による代替が難しい。
厳しい経済情勢であっても高品質の商品を世に送り続け、生き残りを図る職人やプロは数多くみられる。これら素晴らしい暗黙知を有し、製品や技術を提供するプロには、喜んでお金を払いたい。客の満足に見合うだけの仕事をしたのだという充実感こそがプロの糧となる。
(山梨総合研究所 研究員 家登正広)