本当の学力とは


毎日新聞No.174 【平成16年5月25日発行】

~変化し適応できる力こそ~

 約30年ぶりで中学校の英語の教科書を見た。教科書のサイズは一回り大きくなって、絵も多くてカラフルだ。中をめくってみると、外見のみならず中身も随分変わっているのには驚かされた。

  私の当時は、文法重視から定型的な英文中心だったが、今は、”Hi. Nice to meet you.”と会話を中心としたものに変わっている。全体の英文の量も少ない。現行の学習指導要領によると、英語の授業時数は年105時間で、週当たり3時間ということになる。限られた時間数の中で、文法も大切だがまずコミュニケートすることからということなのかもしれない。英語を母国語とする外国人教師が校内に常駐し、外国人と日常的に英語が使える環境にある子どもたちは、外国語や外国人を恐れたり物怖じしたりはしない。外国語を手段として、自分の意見や主張を伝えなければならない時代だ。当時田舎の中学生だった私は、外国人を見かけることは稀だったし、ましてや英語を話すことなど怖くてできなかった。隔世の感だ。

  昨今、ゆとり教育の弊害や子どもたちの学力の低下が言われている。しかし、私たち大人が思っている以上に、子どもたちは『本当の学力』を身につけているのではないだろうか。外国人と話すことに抵抗もなく恐れもしない。自分の意見を堂々と主張できる。混迷しているかにみえる今を、大人には見えない視線でしっかり見据えていると思う。頼もしい限りだ。彼らが成人した先には、閉塞感漂うこの国を大いに変革していくのかもしれない。
  ダーウィンの言う「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるわけでもない。唯一生き残るのは変化できる者である」が真実ならば、私たちは大いに子どもたちに希望を託してもいいのではないだろうか。どのように世の中が変わっても、柔軟に変化し適応できる力こそ本当の学力といえると考えられ、今の子どもたちは案外そのような力をもっていると思う。

(山梨総合研究所 研究員 渡井清)