森林整備


毎日新聞No.175 【平成16年6月8日発行】

~温暖化対策の中の位置づけ~

 山梨県の地球温暖化対策推進計画が策定された。この計画の特徴は、県土の78%を覆う森林を、温室効果ガス(二酸化炭素)の吸収源として積極的に活用するところにある。この方針は、国の計画とも合致しており、また荒れの目立つ山に手が入ることは好ましい方向性であることから、妥当な戦略との判断が一般的かもしれない。
 しかし、森林吸収に期待したわが国の温暖化対策には、克服が容易でない課題が待ち受けている。それは、コストと人手である。

  まず、森林吸収を増やす手法は、国内外におけるその他の温暖化対策に比して2.7~70倍の費用が必要となり、極めてコスト高である。また、人手の確保も容易ではない。国の計画をもとに計算すると、当面の目標期限である2012年までに、全国の林業従事者数を、現在の2倍にまで増やすことが必要になる。しかし、林業従事者の低賃金、ハイリスクの雇用・労働環境を顧みれば、所要の従事者を確保することは容易ではない。林業従事者の雇用・労働環境を改善すれば、それはそのままコストに跳ね返り、森林吸収による温暖化対策のコストをさらに押し上げる。
 そもそも森林経営は、50年単位で物事を計る、スケールの大きな仕事である。2012年までに、林業に補助金をつぎ込み、一時的に人を大量雇用して温暖化対策を推進することは、林業の現場に混乱をもたらすだろう。

  短期的な効果に期待して、森林吸収の拡大を温暖化対策に位置づけるより、当面は両者を分けて考えるべきである。そう考えれば、今なすべきは林業の収益性改善を図ることであり、そのためには建築資材としてはもちろん、燃料として、あるいはプラスチックの代替品として、国産材を活用する社会システムを構築することである。すなわち、国産材、県産材の利用者の育成や活用方法の開発にこそ、注力すべきなのである。また、長期的にみれば、林業が業として成立し、働く人が誇りを持てる環境を作ることは、結果として大きな温室効果ガスの吸収効果を生むことになる。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)