住んでみたいまち
毎日新聞No.176 【平成16年6月22日発行】
~まちは人を育て、産業を育てるゆりかご~
先日、横浜市役所の都市デザイン室のKさんからメールをいただいた。「人事異動に伴う肩書きの変更について・・・」とあるそのメールには、都市デザインを担当して33年経ってしまったとある。33年間も都市デザイン室に籍を置いたまま、部長級に昇格したというのである。とかく首長が交代すると今までの計画は棚の上に載せられ、担当者もコロコロ変わるのが役所の常識、ところが横浜のまちづくりは、首長は変わっても一人のアーバンデザイナーに33年間にわたってまちづくりを続けさせてきたのである。
山下公園、元町、中華街、伊勢崎、MM21などハードだけでなく、都市の色彩や文化的な匂いまで時間をかけてじっくりとつくり続けてきた結果、最近では、韓国、台湾の諸都市から視察団が毎月のように訪れ、受け入れに忙しいというのである。まちづくりは2年や3年で成果を出そうなどと考えても所詮無理である。たとえば都市の色彩を考えても、民間のビルの色を変えるには、塗り替え時期を逃さず協力してもらわなければならない。
さて、英和高校から愛宕山にかけて「古の道」の整備が始まった。石畳が敷き詰められたこの小道は、朝には愛宕山でラジオ体操をする早起き会の人たちの道であり、英和中高生の通学路であり、子供たちにとっては「こどものくに」へ通う道である。京都の哲学の道ではないが、大勢の市民が甲府盆地を眺めながら歩く思索の道でもある。沿道の家々は競ってフラワーポットを並べドイツやスイスの小さな町のような風情である。世界的な演出家蜷川幸雄さんは愛宕山から富士を仰ぎながら「ここに舞台を創りたい・・・」といったそうだが、愛宕山とこの散策の小道は市民にとって大きな財産である。
鎌倉や金沢・京都などは和服が似合う町である。フィレンツェやミラノのようなまちには感性豊かな子供たちが育つに違いない。煤煙のまちには作業服が似合うということになろう。まちは人を育て、産業を育てるゆりかごである。
(山梨総合研究所 専務理事 早川 源)