共有したい公共交通の夢
毎日新聞No.178 【平成16年7月20日発行】
~ネットワークのすき間解消を~
夏休みシーズンが到来した。今年も海へ山へと多くの人が繰り出すことだろう。この時期の多くの人の動きを支えているのは、自転車やバイク、鉄道、航空機といった、さまざまな交通手段である。
旅行などに出かける際に選択される交通手段は、一般的に、移動距離と相関関係がある。近い距離の移動には徒歩が選ばれ、距離が伸びるにつれて、自転車や路線バス、鉄道などに切り替わっていく。このように、距離に応じて利用される交通手段が鎖のようにつながり、ネットワークを形成していくことが望ましい。
このような視点から県内、特に甲府市周辺の交通事情を眺めると、そのネットワークにある「すき間」が存在することに気づく。路線バスと鉄道との間に本来ならば存在すべき中距離の移動を担う公共交通手段がない。このすき間を埋めるため、路線バスは本来のサービスより長い距離の輸送を担い、鉄道は逆に、本来のサービスより短い距離の輸送を担わざるを得なくなっている。このことによるサービス低下が、反動として、全国屈指のマイカー依存型社会をもたらしているといっても過言ではないように思う。
このような問題は地方都市の多くに共通する課題であるが、すでにいくつかの都市ではこれへの対応が検討されつつある。一つは、欠けている中距離輸送手段を整備する動きであり、もう一つは、都市のあり方そのものを見直していこうという動きである。前者は例えば、改良型の路面電車であるLRT(Light Rail Transit)の整備を進めようとするものであり、後者は、公共交通機関が成立しうるコンパクトなまちづくりを進めていこうとするものである。
マイカーに過度に依存した社会の弊害は多くの人が認識している。しかし、便利なマイカーを使わないという我慢を強いるだけでは、都市の交通問題は解決しない。夢と戦略が必要である。夢を共有しつつ、地域にふさわしい交通ネットワークや都市のあり方を官民あげて考えるときが来ている。
(山梨総合研究所 主任研究員 山本盛次)