「一葉」という名の地域通貨
毎日新聞No.179 【平成16年8月6日発行】
~試行錯誤がまちづくりのおもしろさ~
今年11月、新しい現金通貨として明治時代の文学者樋口一葉の五千円札が流通開始となる。一葉の両親の出身地である塩山市は、「心のふるさと」としてさまざまな関連イベントなどを行っている。
そうした中で一葉に因んだ「もうひとつの通貨」が流通し始めている。塩山市とその周辺の地域の主婦や会社員、公務員などでつくる塩山市地域通貨研究会が発行する地域通貨「葉(YOU)」である。名刺サイズの紙幣形式で、1枚が「一葉」というわけだ。代表の桐原正仁氏にうかがうと、「葉」は、1回30分程度の「ちょっとしたお手伝い」をしてくださった方に「ありがとうの印」としてお渡しするものだそうだ。参加者は、自分の「できること」「して欲しいこと」を登録し、登録料千円を支払って20「葉」を手にして使用を始める。現在70名ほどが参加登録しているという。
地域通貨には、法定通貨としての「円」のような、いつでもどこでも使えるといった利便性はない。しかし、地域の人々のふれあいの仲立ちをしたいという主宰者の「おもい」をメッセージとして乗せることができる。
メッセージが十分に伝わるためには、十分な参加者数が確保され、循環する環境を整えることが必要であろう。その方法として、月に1回の「一葉市」という「葉」を使い交流する場を設けている。また、ミニコミ誌を定期的に発行し、会員間の情報交換や地域情報の提供を行っている。商店等が受けとった「葉」でミニコミ誌に広告を掲載することもできるが、まだまだ商店等の参加は少ないようである。また、高齢者などの参加も進んでいるが、使い方の指導などのきめ細かなサポートが必要な場合も多い。
今秋に予定しているという「葉」の本格流通に向けて、いくつかの課題を解決していかなければならないのであろうが、試行錯誤はまちづくりのおもしろさと理解し、さまざまなアイディアを出し合い、まちづくりを通じた交流の場となることを目指して欲しい。
(山梨総合研究所 研究員 荻原 宗)