少子化をくいとめる


毎日新聞No.183 【平成16年10月1日発行】

~親は自分のペースを取り戻せ~

 本年5月、厚生労働省は、1人の女性が生涯産むと考えられる子の数を示す合計特殊出生率が昨年、全国平均で1.29に低下したと公表し、話題となった。山梨県では1.37と全国よりは若干高いものの、全国同様、統計史上最低を記録した。この少子化の原因としては、保育所等のハード・ソフト両面にわたる整備の遅れや不況に伴う労働環境の悪化など、社会構造上の問題が指摘されている。

  ここで、子どもを産み育てる側の現代の若い世代を見ると、彼らは過去に、食事をはじめ親が家事を行う環境下で育った上、1人でも外食等、手軽に空腹を満たすことができるため、育児等手間がかかることを嫌ったり、衛生に敏感な潔癖な親は汚したり散らかしたりする子どもの行動に苛立ちを覚えたりするという。
 これら子育てができない親がいる一方で、ここにやや古いが興味深いデータがある。現代の若い世代は産む子の数が減少しているものの、育児時間は以前に比べて長くなっているというのだ。NHK放送文化研究所「国民生活時間調査(1995年)」によると、乳幼児がいる主婦が子の世話に費やす時間は、1970年には1日平均一人108分であったが、90年には163分に伸びている。
 目白大学非常勤講師の品田知美氏は、著書『<子育て法>革命』の中で、1930~70年代までは、「風習」による子育て法と「科学」的な子育て法の2つの規準が並立しており、これらを踏まえた多様なアドバイスを受けた場合、親は育児方針を選択する余地があったが、80年代以降は「風習」と「科学」が融合し、選択の余地が減ることで親の主体性が薄れ、育児が常に子ども中心のペースとなって余裕がなくなったと指摘する。

  このように現代の親は、普通に子育てをする親、子育てができない親、子育てに手が抜けない親の三方向への分化が起きているのではないか、と推測される。このうち、特に手が抜けない親に対しては、自身のペースに戻れるよう、周りも配慮する必要があるだろう。

(山梨総合研究所 研究員 家登正広)