自然観光
毎日新聞No.185 【平成16年11月12日発行】
~集客優先からの脱却~
十月最終日曜日、雨天の合間を縫って紅葉の西沢渓谷を散策した。見ごろを迎えた紅葉の中の渓谷歩きは適度にハードで、秋の一日を存分に楽しむことができた。
西沢渓谷では、ハイキングを安全で快適なものとするため、ここ1、2年コース整備が進められている。危険箇所へは手すりが、道すがらには渓谷の魅力を伝える解説板が設置された。コース最深部七ツ釜五段の滝からトロッコ道に上がったところには、山岳トイレも設置された。このトイレは、地元観光業者や行政で構成する管理組合が、週1回徒歩で登っては清掃を行なうことで維持されている。
こうした「より多くの方に散策を楽しんでもらいたい」という地元の願いとは裏腹に、西沢渓谷では今年、ハイカーが負傷、死亡する事例が続いている。西沢渓谷の周遊は、昼食をとれば5時間を見込むべき長丁場だ。整備が進んだとはいえ、依然として転落の危険が潜み、水や泥に浸かりながら歩く場所もあり、決して楽な行程ではない。にもかかわらず、一部は男性で言えばビジネスシューズ、女性ではヒールの高い靴での入山もある。
快適さをもたらすはずのトイレは、トイレットペーパー以外のもので目詰まりし、使用不能となっていた。メンテナンスが困難な立地を考えれば、便器に流せないものは持ち帰るのが当然である。しかし、街歩きと同じ感覚で、ゴミ箱を探して歩くハイカーがいることも事実である。
県最大の魅力は、テーマパークにはない本物の自然である。当然、山には安全を保障してくれる人も掃除をしてくれる人もいないし、通常はトイレもない。そこに足を踏み入れるには、それなりの心構えと準備が必要であり、ごみの持ち帰りは最低限のマナーである。
自然は、ルールを守れる人だけの観光地でいい。ルールの周知とともに、登山口などにガイドを配し、余りに軽装な方には、危険を伝え、適当な地点で引き返すことを促すべきである。観光振興といえば、これまで集客がすべてに優先してきたが、これからは「客を選ぶ」という視点も必要となる。
(山梨総合研究所 主任研究員 藤波 匠)