本当のプロが求められる時代


毎日新聞No.188 【平成17年1月14日発行】

~必要な中庸の理念~

 4月のペイオフ全面解禁を控え預金者の自己責任があちこちで言いはやされているが、自己責任という座りの良い言葉の影で、プロの責任や自負心がないがしろにされていないだろうか。社会が複雑になる中、プロのプロたるゆえんはアマチュアである多くの一般消費者の的確な判断を助ける水先案内を行うことだと思うが、プロに依存しすぎないということが、何の助けもなしにすべての判断を自分自身で行うという発想に安易に飛躍してしまうことに、ある危険を感じる。

  同じような発想の飛躍は、人口減少社会や少子化についての論調にも見受けられる。少子高齢化が進み人口が減少する時代が到来する結果、社会の活力が低下し、陰気で厄介な世の中がやってくるという論調がいかに多いことか。確かに、世代間の人口バランスが崩れることの課題は多く、人口が減っていく社会のゆがみは多くの場面であらわになる。しかし、右肩上がりの経済成長が期待できなくなったことがかえって社会を成熟させ、生活の質の向上に貢献しているのと同様に、人口減少社会だからこそできることがある。成長から成熟へと社会のかじを切っていくことは、人口が増加していく世の中では難しい。人口減少社会だからこそ享受できる豊かさがあるのであって、その到来をいたずらに恐れる必要はない。
 時代をブレイクスルーする理念が必要であることはもちろんであるが、その論理にとらわれ過ぎると発想が飛躍し、対応が極端から極端に流れる危険がある。中庸という言葉があるが、今こそ中庸を知る必要がある。そして、何をもって中庸とするかが政策判断の妙味であり、安易な折衷案ではない中庸を示すことが、今の時代のプロに求められる。

  時代の先が見えにくい社会、そして、相次ぐ自然災害など不安が募る今の時代には、義経のようなヒーローがもてはやされる。しかし、このような時代だからこそ、中庸を知り冷徹な判断ができる本当のプロとしてのリーダーが、政治にも企業にも、そして地域社会にも必要である。

(山梨総合研究所 主任研究員 山本盛次)