甲州民家の保存
毎日新聞No.189 【平成17年1月28日発行】
~地域の宝もの探そう~
山梨県の伝統的な民家は「甲州民家」と呼ばれ、際立った特徴があることが分かってきた。甲州民家には3つのタイプがあり①八代家(北杜市)に代表される入母屋造り②郡内地方などに分布するかぶと兜造り③甲府から峡東方面に分布し甘草屋敷(塩山市)に代表される、突き上げ屋根を家屋の中央に設けた切妻造りのタイプである。通常は、甲州民家というと③を指す。
平成15年度に農林水産省が行った古民家の全国調査で、③のタイプの民家は他に類がなく、全国でこの地域にしか存在しないオンリーワンであることが確認された。
塩山市中心部から国道411号を柳沢峠方面へ5kmほど進み、国道から1kmほど外れた山懐に上条という集落があり、甲州民家が多く残っている。この度、景観と文化財の保全、これらの利活用と継承を目的とした財団法人「日本ナショナルトラスト」が、古民家研究の権威である大河直躬千葉大名誉教授の指導の元で集落の調査を始めている。現在までに、トタン等で覆われてはいるもののかや茅ぶ葺きの甲州民家が、全戸25棟のうち13棟確認されている。同法人は、重要伝統的建造物群保存地区の指定(県内では早川町の赤沢宿が選定されている)などによる保存を視野に入れて調査を行っている。併せて、首都圏方面からのアクセスの良さや周辺の農村的景観、体験農業等との組み合わせによる観光資源としての可能性も探っているようである。
以前、「田舎には、なにもないが、ある」というキャッチコピーがあったが、実は、なにもないのではなく、「意識されないということがある」だけだ。上条集落のように、時代の流れが、以前はどこにでもあったものを希少価値に変えていくこともある。地域内外のさまざまな知恵を集めて、わが地域の宝もの探しをすることが、地域の元気に繋がるといえよう。
なお、前述の農林水産省の調査によると、芦川村には②タイプの民家が150棟ほど現存しており、これほどの数の集積は、全国でも数ヶ所しかないという。これも地域の貴重な資源となりうると考える。
(山梨総合研究所 研究員 荻原宗)