伝統文化の保存
毎日新聞No.190 【平成17年2月14日発行】
~ふるさとの昔を学ぼう~
「大神さん」から「十日市」、「厄地蔵さん」へと続く一連の祭りが過ぎると、甲府盆地にも春の足音がだんだん近づいてくる。
祭りは常に季節とともにあり、ふるさとを離れた人も、季節の移り変わりのなかでふるさとの祭りを思い起こし、ふるさとへ想いを馳せる。祭りはやはりふるさとのシンボルだ。
しかし、その祭りも、時代とともに姿を変え、いわゆる伝統的な村まつりは衰退の一途を辿っている。
祭りと深く関わっている伝統芸能も同様で、しかも、こちらは誰でも代役が務まるというわけではないため、いったん途切れると復活がなかなか難しい。山梨には、国の重要無形民俗文化財に指定されている「天津司の舞」(甲府市小瀬町)をはじめ、各地に神楽、能三番、獅子舞、打ちばやしなどの伝統芸能が伝承されている。しかし、その多くは、保存会など関係者の努力により、何とか現在の姿を保っているのが実態だ。
今、人間形成などいろいろな角度から、共同体としての地域の役割の大切さが再認識されている。そのようななかで、地域の貴重な財産であるこれらの伝統文化はしっかりと後世につなげていかなければならない。われわれにできることは何か。先ずは、ふるさとについてもっとよく学び、ふるさとの歴史や文化への理解と関心を深めることではないか。折しも、平成の大合併が進行中であり、ふるさとの意味が改めて問われている。町誌(村誌)を紐解いたりしながら、ふるさとの昔を、祖先が歩んできた道をもう一度見つめ直してみたい。伝統文化の再興もそこから光が見えてくる。
さて、4月に入ると、春祭りの先陣を切って天津司神社のお祭りが開かれる。9体の人形が近くの諏訪神社へと向かう「お成り道」の周辺には、もはや田園風景はない。しかし、人形にこめられた地元の人たちの地域への愛着は昔も今も変わらない。今年はぜひともその晴れ姿を見てみたいと思う。
(山梨総合研究所 主任研究員 川住道夫)