観光のジレンマ


毎日新聞No.192 【平成17年3月11日発行】

~成長を管理する政策~

 観光振興に対する関心は非常に高い。政府でも、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定)に基づき、ビジット・ジャパン・キャンペーンと銘打って、現在の年520万人の外国人来訪者を、2010年までに1,000万人にすることを目標に、国家政策として観光政策を展開している。こうした取り組みは、各自治体においても同様である。

  国土交通省によると、旅行消費による生産波及効果は53.9兆円と推計され、GDP(国内総生産)の実に5.7%に相当する。また雇用効果も、総就業者の6.8%を占め、わが国の経済に少なからず影響を与えている。長く低迷している経済の活性化を図るため、観光振興がクローズアップされるのは当然ともいえる。
 山梨県は、人口3,500万人という世界有数の東京都市圏に隣接しており、また同様に800万人の中京都市圏からも3時間程度でアクセスできる。このような巨大市場に囲まれながらも、日本のシンボルともいえる富士山を抱き、良好な自然環境を保っている。山梨はある意味、非常に恵まれた立地条件にある。
 観光を政策的に振興していくことは、地域の活性化のために必要なことである。しかし、一方で大量の人が一度に押し寄せることは、山梨の大切な財産である自然環境を損ないかねない。観光政策の難しさは、市場原理で動く観光産業と、環境保全のような直接利益に結びつかない公共政策とのジレンマにある。インターネット社会においては、驚くべき早さで口コミが広がり、そこで紹介された場所に人はこぞって訪れる。地理的利便性の高い山梨はなおさらである。しかしこうしたネット社会では、本物以外は飽きられ忘れられるのも早い。

  政策的に観光振興を考える場合、目先の誘客だけにとらわれると、山梨の財産を失いかねない。山梨の良さは、やはり自然景観と、都会にはないゆっくりと流れる時間や季節感などである。それらを守るための成長の管理といった視点も重要となる。

(山梨総合研究所 主任研究員 広瀬信吾)