魅力的な地域資源づくり


毎日新聞No.200 【平成17年7月12日発行】

~住民の努力が不可欠~

 6月半ば、身延町一色地区を訪れた。この地区を流れる一色川周辺は「ホタルの里」として、県内でも有数のホタルの名所として知られている。そしてこの川の1km以上にわたる範囲でホタルが自然繁殖している。

  午後7時半を過ぎ、周囲が暗闇に包まれるころ、数匹のホタルが舞い上がり、やがてその数は数十匹に達し、幻想的な光を放っていく。ホタルが光を放つのは求愛行動の一環であるというのは広く知られているが、その情熱的な光に魅せられ、引き寄せられているのはどうやらわれわれ人間のほうらしい。普段では人通りもまばらであろうこの川沿いに、初夏の一時、数百人の見物客が集まり、あちらこちらで小さな歓声をあげる。そして、まちは静かに観光客を受け入れている。時間がさかのぼっていくような、至極の自然がここにはある。

  しかし、この幻想的な情景も人の手を掛けずにあるわけではない。一色川周辺においては40年近くも前からホタルの保護活動が行われている。当初は、合成洗剤の自粛から始まり、手作りせっけんの推奨、低農薬化への取り組み、生ゴミのコンポスト処理促進など、住民が主体となり、さまざまな方法で生活環境の浄化に取り組んだ。そして行政も、住民が台所廃油をせっけんにする活動や生ゴミを有機肥料化する活動を支援、87年には「ホタル保護条例」を制定し、ホタル保護を行政施策と位置づけている。
 今、観光地づくりのため、魅力的な「地域資源」の発掘が求められている。しかし、そのような「地域資源」は、それを支える地域住民のたゆまぬ努力なくしてはあり得ない。むしろ「地域資源」という宝は、本当に地域を大切にしようと思う地域住民の愛情そのものにあるのではないだろうか。

  近年、当地を訪れる観光客が増えるにつれ、たばこの投げ捨てやフラッシュをたいたカメラ撮影などマナーの低下が目立つという。地元の人々のひとかたならぬ努力があることを十分理解し、マナーを守った鑑賞をしていただきたい。

(山梨総合研究所 主任研究員 保坂幸彦)