行政は優先的な取組で負の遺産から決別を


毎日新聞No.201 【平成17年7月29日発行】

~アスベスト問題に寄せて~

 忘れかけていたアスベストの問題が、メーカーの情報公開を機に再び大きくクローズアップされている。アスベストは、過去幾度となく社会的問題として関心を集め、報道の沈静化とともに、国民の関心から消え去ることを繰り返してきた。しかし、今回は具体的な人の死、それもアスベストの取り扱い事業所の従業員だけでなく、その家族や周辺住民への被害も明らかとなったため、マスコミの取り上げ方も大きい。

  アスベストは、効率性が重視された高度成長期に多量に用いられた。すでに当時、発ガンの可能性が明確に指摘されながらも、安価で断熱性、耐熱性が高く、かつ等価の代替材が見出せないことを理由に、主に建設用途に輸入・販売された。
 わが国では、アスベストの利用や輸入に関し、70年代半ばから段階的に規制が導入されてきた。しかし、それは欧米各国での使用禁止の動きからはかなり遅れたものであり、こうした国や業界の姿勢が批判の対象となっている。アスベストは、効率性・経済性が優先された20世紀に積み残した、わが国の「負の遺産」といえる。
 高度成長期に効率性を優先するが故、あえて解決を先送りにした負の遺産は、何もアスベストだけではない。電気機器の絶縁油などとして利用されたPCBはもちろん、古い安全基準で設置された廃棄物処分場や不法投棄現場も負の遺産候補である。PCBは、人体に強い毒性を有する物質で、昭和47年に使用が禁止され、所有者に保管が義務付けられた。しかし、平成16年末、ようやく北九州で処理施設が稼動し始めるまでの32年間に、一部には所在が分からなくなったものもあり、環境への影響が懸念されている。

  21世紀となり、時代は効率優先から新たな価値観の創造へと移り始めている。心豊かな生活ができる社会、あるいはいま流行の安全・安心な社会への移行を考えるとき、20世紀の負の遺産は、優先的に解決が図られるべき課題である。行政には、「負の遺産」の実態把握に努め、被害が明らかとなった場合には、被害者の救済や被害の拡大防止を図ることが求められる。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)