地域アイデンティティーの確立
毎日新聞No.203 【平成17年8月19日発行】
~自治体と民間が「協働」 伝統を守る・創る ~
先月13日~15日にかけて、国産ぶどうのみで造ったワインを対象としたコンクール、ジャパン・ワイン・コンペティションが開かれた。3年目の今年は、全国20道府県の83醸造所から446本のワインが参加した。そのコンクールで今回、甲州種を原料とするワインが金賞を受賞し、話題となっている。この成長の陰に、守るべきもの(品種)を守る伝統と変えるべきことを柔軟に変える革新性があった。
ここ十数年、日本人の食文化において洋食の広がりや食事と共にワインをたしなむという習慣が広がり、辛口ワインへの嗜好の変化があった。これに呼応して山梨では1983年、従来の醸造法とは異なり、あえてオリ(澱)と発酵後のワインを接触し続けるシュール・リー法を甲州種に取り入れた生産が本格化する。以後、試行錯誤を重ねて、現在のフレッシュでフルーティな香りと豊かな味を実現した。またこれと並行して、高品質のぶどうを育てる環境づくりが進められている。土づくり、栽培方法の工夫や収量制限などを行い、魅力あるワインを目指して努力を続けたのである。ここでは、醸造家の熱意に感化され、良いぶどうを作るため共に汗した農家の働きを忘れてはならない。これら山梨における地域風土や個性を活かしたワイン造りは、他の地域にも影響を与えている。
このように甲州ワインの伝統は、新たな手法を「創り」、周囲の農家など人々に影響を与えることで、脈々と「守られて」きたのである。
近年、市町村合併などに伴い、地域のアイデンティティーをどうするかといった地域活性化を課題とする町が多い。県や市町村は、民間との「協働」をキーワードに活性化施策を進めている。しかし、従来どおりの考え方や手法のまま、ただパートナーシップを呼びかけるものには、違和感を覚える。
地域の力は、その地域に生きる全ての人の力の総体である。時代を読みながら手法を創り、周りに影響を広げる中で、地域のアイデンティティーは守られるのではなかろうか。
(山梨総合研究所 主任研究員 家登正広)