耐震データ偽造問題


毎日新聞No.211 【平成17年12月13日発行】

~民間委託のリスク低減へ制度構築を~

 庶民の最大の資産ともいえるマンションを舞台とした耐震データの偽造が、大きな社会問題となっている。山梨では、今のところデータが偽造されたマンションは見つかっていない。しかし、今回の問題は建設業界全体への不信感を増大させ、あらゆる建築物に対する信頼性の低下を招くだろう。

  本件では、国の指定を受けた民間の確認検査機関が問題の一端を担っていた。それゆえ、「民間企業に任せることのリスク」がやや過大に注目されているきらいがある。しかし、民間リスク自体は今回の問題の本質ではない。行政であれば、偽造が見抜けたとの確たる論拠は乏しい。逆に、この業務の民間開放と同時期に導入された「中間検査」により、監視機能は高まっている。また、民間車検場や計量証明事業も類似の制度と考えられるが、これらを民間が担うことに異議を唱える人は少ない。
そもそも、民間企業には倒産を始めさまざまなリスクがある。本件では、そのリスクを回避、もしくは受容(保険の類)できる制度でなかったことに問題の本質がある。たとえば、設計・施工・検査主体に賠償責任保険への加入を義務付けることは、リスク管理の手法として有効である。リスクの高い企業は、保険者である損害保険会社の設定する保険料が高くなるため、市場からの退場が促される。もちろん、保険だけでは保険者の能力や犯罪への対応といった課題は残るが、ある程度のリスク低減は期待できる。
 現在、地方自治体では「官から民へ」という構造改革の流れの中で、「指定管理者」の導入に動いている。これは、公共施設の管理・運営を企業やNPOなどに委託することで、サービスの向上と施設の効率的な運営を狙ったものである。その他、「市場化テスト(官民競争入札)」なども検討されている。

  こうした新たな制度において、民間リスクが発端となり発生した問題の解決に、税金投入を慣習化すれば、民間リスクは温存され、構造改革の動きを後退させる。たとえば保険という手法を用いるなど、「民間リスク」を民間の力によって低減する方策を考えるべき時期に来ている。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)