「知恵」を得る受験勉強
毎日新聞No.214 【平成18年2月10日発行】
2月に入っていよいよ受験シーズンの到来である。受験生はこれから3月まで気の休まらない日が続くかと思う。また、受験する本人はもとより、家族も緊張が強いられる時期であろう。勉強していると、不安や焦燥感にとらわれるかもしれないが、これまでの努力の成果を信じて、ここが踏ん張りどころと頑張ってほしい。
ここで、若い人に読んで欲しい本がある。小檜山博著「地の音」である。高校への進学を貧困のため諦めかけた著者は、家族の理解で高校に進学した。勉強できる喜びが熱っぽく語られている自伝的小説である。当時と時代背景は違っていても、受験勉強ができる境遇にある幸せを感じさせてくれる。一読を勧めたい。
また、歌手の森高千里さんが歌う「勉強の歌」も聞いてほしい。勉強ができる時には限りがあって、それを逸すると後悔するよと、ユニークな歌詞で歌っている。学校を卒業すると、強い動機付けがない限り、仕事を持った社会人にとっては多くの時間を勉強に充てることは困難である。勉強に集中できるのは、やはり10代の頃である。一生のうちで世事に煩わされず、気力や体力とも充実したこの年代こそ、最も勉強ができる時期である。勉強の季節はまさに短い。
ところで、受験勉強は受験英語という言葉に代表されるように、ともすれば入学のための手段を越えて価値はないと思われているのではないだろうか。しかし、私は受験勉強から得るものには、「知識」はもちろんのこと、限られた時間の中での段取りの工夫や枝葉末節にとらわれない見通しづけといった、「知識」とは違った「知恵」に相当するものがあると思う。このように受験勉強を「知恵」を得ることができる機会であるととらえれば、決して価値のないものではない。
最近は、「下流社会」「格差社会」「勝ち組・負け組」といった言葉が盛んにいわれている。社会階層の固定化が進んでいるという。しかし、若い人にはこのような現状に満足せず、受験勉強で得た「知恵」と「知識」をもって、社会に挑戦してもらいたい。
終わりに、あと1ヶ月余り、受験生の健闘を祈る。
(山梨総合研究所 研究員 渡井 清)