ブランドづくりの原点


毎日新聞No.216 【平成18年3月10日発行】

 第2、第3の夕張メロンは生まれるか-。4月に改正商標法が施行され、商品やサービスに地域名を冠した、いわゆる「ご当地ブランド」の商標登録が容易になる。

  今回導入されるのは地域団体商標制度と呼ばれるもので、夕張メロンや関サバ、関アジ、西陣織など全国的な知名度があるものに限られてきた商標登録基準を、隣接する都道府県に及ぶ程度の知名度で足りることとしている。
 この緩和措置により、登録商標制度のハードルは一気に引き下げられる。県内を含む多くの地域が活性化のチャンスとして注目しており、民間調査機関によれば、この4月1日には全国で300を超える商標の出願がある見通しだという。ある種ブームのような様相を呈するなか、多くの自治体や団体が乗り遅れまいと躍起になっている。その気持ちはよく分かる。
 しかし、考えてみてほしい。商標を登録するだけではブランド構築にはつながらない。第三者の権利侵害から守ることはできても、地域活性化につなげていくためには、また別の取り組みが必要である。

  ブランドづくりは、商標を含むネーミングやロゴマークづくりであるという誤解や、商品やサービスを実物より良く見せかけるためのイメージアップ戦略であるという誤解がはびこっているように感じるのは私だけだろうか。ネーミングもイメージアップ戦略もブランド構築の重要な要素であることには違いないが、それだけでは逆効果になることがある。見せかけのブランドは、顧客・消費者の失望と反感を買いかねない。
 地域ブランドづくりは、地域固有の文化や特性を掘り下げたアイデンティティー探しから始まる総合的なプロセスである。また、このようにして他の商品やサービスとの差別化が図られた実体を、過不足なく顧客・消費者に理解してもらうためのコミュニケーションのプロセスでもある。言い換えれば地域の“宝”を探し、磨き上げ、きちんと伝えていくという一連の作業がブランドづくりには欠かせない。

 ご当地ブランドブームに翻弄されることなく、ブランドづくりの原点に立ち返った視点を持っていくことが、今求められている。

(山梨総合研究所 主任研究員 山本盛次)