ワインと芋焼酎


毎日新聞No.217 【平成18年3月31日発行】

 山梨にはワイン文化がなかなか根付かない。いやむしろ無いと言える。こう言うと業界の方にはお叱りを受けそうだが、鹿児島の芋焼酎文化と比較すると、「一言」言いたくなるのである。

  過去、日本のワインブームは3回あったにも拘わらず、いつも“はやり歌”のように一時的で終わっている。「なぜ山梨ワインは焼酎のように庶民的では無いのだろうか」と常に疑問があり、ふと思い至ることがあった。それは、山梨のワイン文化と、鹿児島の芋焼酎文化の違いではないか。文化などと仰々しく言わなくとも、鹿児島県民の芋焼酎に対する愛情や、それが生活の一部になっていることを比べると分かりやすい。鹿児島の友人曰く、「こちらでは酒と言えば芋焼酎のこと、酒席では芋焼酎で乾杯。日本酒を飲みたい時は、日本酒をください」と言わなければいけないそうだ。こうした、「我らが芋焼酎」という生活スタイルが文化となり、焼酎の消費拡大に一役買っているのではと思う。つまり、芋焼酎の生産地であり、芋焼酎を愛飲する鹿児島の生活文化が波紋のように全国に伝播し、定着したような気がする。
 当地ではどうだろうか。酒席ではビールでの乾杯が多い。県外の人から「山梨なのにワインで乾杯しないのか」とよく疑問を投げかけられる。確かに、我々県民の生活風景の中にワインが抜け落ちているのである。ワイン生産地がこのような情況で全国の人が応援してくれる訳がない。山梨ワインを広めるためには、まずこの地にワインのある日常を育てることが必要ではないだろうか。山梨を訪れた人がその生活文化に触れることによりワインの良さを実感、「今日はワインで一杯」となるのでは。
そこで提案、「乾杯は山梨ワインで!」の県民運動はどうだろうか。

  2月に山梨県産のワインを全面に押出したレストランが東京・新橋にオープンしたと聞いた。ここは、料理の食材から座布団や暖簾に至るまで県産品を使用している。「甲斐の国」を都民にアピールする場として期待できる取り組みであり、こうした地道な活動が広がることを願う。そして、私も山梨ワイン文化に微力ながら貢献できるよう、V・F甲府の勝利を願って「山梨ワインで乾杯」としよう。

(山梨総合研究所 主任研究員 福田加男)