関心社会が地域を守る


毎日新聞No.220 【平成18年5月12日発行】

 近ごろ、各地域において、「地域安全マップ」作りへの取り組みが進められている。これは、子供が犯罪に巻き込まれるのを防ぐため、子供の視点で通学路などにおける「危険」と思われる場所を地図に書き込んでいくものである。

  この「地域安全マップ」作りを勧めている小宮信夫・立正大教授によると、犯罪に遭いやすい場所は、「誰もが入りやすい場所」や「見えにくい場所」であり、こういった場所の特徴を体験的に学ぶことによって、子供が犯罪に遭う機会を減らすことができるという。
 さらに、小宮氏によると、「世間の関心が届きにくいところ」や「管理の目が行き届かないところ」も犯罪に遭いやすいという。つまり、ごみが散乱したままの場所や自転車や落書きが放置されている場所が危険であるということである。
 一方で、「知らない人から声をかけられたら云々」という教えは、地域にとってマイナスに作用する側面もあると指摘している。以前であれば、少なくとも同じ自治会程度なら「知らない人はいない」という状況もあったであろう。しかし、地域における個人個人の接点が極めて希薄になった現在、子供たちにとっては近所でも「知らない人だらけ」になっている。そして子供たちは、「知らない人とは話をしない」という行動を選択し、さらに互いの距離を遠ざけていくのである。
 また、マンション購入者の購買動機の一つに「他人と煩わしい付き合いをしたくない」という項目が挙げられるように、現在は、人との関わりや地域との関わりを避ける傾向が強くなっているように感じられる。凶悪な犯罪事件に目撃者が少ないというのもこの傾向の現れではないだろうか。

  先に上げた「地域安全マップ」作りの取り組みからは、「危険」な場所を減らすため、まちを挙げて清掃活動に取り組む例も見られる。スクールガードリーダー制度や住民パトロールなど子供の安全確保に向けた取り組みが進められているところであるが、犯罪が起きにくいまちを作るには、そのような活動を契機として、個人個人が地域の場所や人に関心を持って接するという「関心社会」の再生が求められる。

(山梨総合研究所 主任研究員 保坂幸彦)