古本屋のある街角


毎日新聞No.221 【平成18年6月2日発行】

 甲府の街から、古本屋が消えつつある。古本屋といっても、古色蒼然とした、最近あまりお目にかかれなくなった箱入りの高そうな本が並び、ちょっとかび臭いにおいが充満するいわゆる古書店である。数年前には、まだいくつもの店がシャッターを開けていたように記憶しているが、今では数えるほどだ。

  甲府のように大学がいくつも居並ぶ街の必要不可欠な名脇役として、古本屋は街の風景を形作ってきた。古い全集などが居並ぶ様子は、街の文化度を表しているようにも感じられた。古書がインターネットで検索でき、全国からの取り寄せが可能な時代になっても、高価なものを買う際には一度手に取って悩む場としても貴重である。
 そうした古本屋が、甲府の街から、いや全国の街角から姿を消しつつある。現代の社会経済システムの中では、昔ながらの古本屋の商法は、後継者の確保もままならない。
 古本屋に限らず、さまざまな業種で同じことが起こっている。中心街では、郊外の大型店舗に押され商売をたたむ小規模な店舗が多く、空洞化が叫ばれる。しかし、そうした店舗が扱ってきた商品や販売方法は、郊外の大型店舗とは必ずしも同一ではない。ちょっとしゃれたもの、ちょっと珍しいものを馴染みの店で、顔見知りの店員とやり取りをしながら探すのであれば街中だ。ちょっとしゃれた飲食店も、街中ならではのもの。これらの店舗が一つまた一つとシャッターを下ろすことは、昔ながらに街が持っていた文化が、少しずつ失われていくことに他ならない。
 中心街の活性化は、どの都市でも頭の痛いところであり、さまざまな方向性が模索されている。中心街への車のアクセス性を高め、郊外型の店舗と正面から張り合う手もある。逆に、歴史や文化のある街であれば、それを前面に押し出した街づくりが可能である。

  甲府の場合、空洞化とは言っても、いまだ古本屋をはじめとする特徴ある店が残っている。ちょっとしゃれた飲み屋や昔ながらの食堂もある。最近は、復活した桜座周辺がにぎわっているとも聞く。街の持つ強みの部分で勝負するため、文化とその背景にある歴史を活用した街づくりが、甲府の街には似合っている。

(山梨総合研究所 主任研究員 藤波匠)