身近な危機に備える
毎日新聞No.224 【平成18年7月21日発行】
「北朝鮮が日本海にミサイルを発射!」5日、大きなニュースが日本中を驚かせた。
実際に我が国に対してミサイル攻撃や生物化学兵器などを用いたテロ、駅や危険物貯蔵施設の爆破などが行われた場合に、国、県、市町村などがどう対応するのかをまとめたものが「国民保護計画」である。昨年度末までには全都道府県が策定を済ませ、今年度は各市町村でも計画策定が行われることになっている。
ただ現実には、そのような計画があること自体ご存じない方が多いのではなかろうか。県計画のパブリックコメントに1件の意見も寄せられなかったことは(PR不足もあるにせよ)あまり関心を集めていないことの証左かもしれない。
同計画で準備されていることは、戦争をも視野に入れたある意味で究極の危機管理である。それだけに内容への抵抗感も根強く残っている。また、今回の北朝鮮のミサイル問題などが、即国家間の戦争に至るかといえば、否定する意見の方が多い。
しかし、爆発物を製造・使用したり、伝染力の強い病原菌を広範囲に散布したりするなどのテロ行為は、個人でも可能な時代である。
さらに、従来から災害対策の対象としてきた地震や河川氾濫、土砂崩れなどの自然災害も含め、もっと身近なところで危機的状況に遭遇する可能性も決して低くはない。電車が高速で脱線した、高速道路で横転したトレーラーから有毒な化学物質が漏れ出した、大型スーパーの店内で異臭がしたなどの事件・事故にいつ巻き込まれてもおかしくはないのである。
国民保護計画で想定されているような極端な事例を必要以上に恐れる必要はないかもしれないが、そこまでの準備が本当にできていれば、他のさまざまな「緊急に対処が必要な事態」への対応にも応用が利くはずである。各自治体においてはもう一歩踏み込んで、地域防災計画や要援護者支援計画等の災害対応の各種計画類を包含した総合的な危機管理体制を早期に確立させていく取り組みが求められよう。
また、我々個人としても、自分や家族、従業員や近隣の人々の身を守るために何が必要か、どう行動すべきかを改めて考えてみたい。
(山梨総合研究所 主任研究員 柏木貞光)