母子世帯の厳しい現実


毎日新聞No.225 【平成18年8月4日発行】

 母子世帯の増加が顕著である。厚生労働省の全国母子世帯等調査結果報告によると,03年11月1日現在の母子世帯数は約122万世帯で、過去5年間に28%増加した。特に離婚が原因の母子世帯は、過去5年間で50%増加し、全体の80%を占めるに至った。

 また、母子世帯の平均的家族像は母33.5歳、末子4.8歳、年間収入212万円であり、厳しい経済状況下にあると想像される。母親がより良い条件の就業先を求めても、国内雇用環境の悪化から常用雇用の口は少なく、臨時・パートといった仕事を選択せざるを得ないことが多い。
 母子世帯の生活レベルを維持するため、父親からの養育費に期待がかかるが、定期的に養育費を受けている世帯は約18%で、その金額も月平均4万5千円程度にとどまっている。そもそも離婚時に66%が養育費に関する取り決めを交わしていない。その理由は、「相手の支払う意思や能力が疑問」「相手とのかかわり拒否」「交渉決裂」などであり、「相手に養育費を請求できるとは思わなかった」というものもあった。養育困難な世帯への公的経済支援として児童扶養手当制度があるが、手当額は一世帯当たり4万円程度であり、母子世帯の生活水準向上とまではいかない。子供の扶養義務の確保といった面からも、養育費の取り決めを促すことが重要であるため、離婚届を役所が受理する際、「養育費に関するリーフレット」を手渡すだけでなく、相談業務の積極的な展開を進めるべきである。
 OECD(経済協力開発機構)が発表した「対日経済審査報告書2006」では、日本は所得水準の低い「相対的貧困層」の割合が先進国では2番目に高く、特に一人親世帯ではそれが顕著であることを指摘している。また、OECDはこうした貧困が、子供の教育費を圧迫し将来世代に引き継がれることを危惧している。

  OECD諸国の平均データを見ると、当初所得ベースで高い貧困率を社会保障によって改善していることが分かる。我が国では、逆に児童扶養手当を削減し、就労支援による自立を促す解決策に活路を見いだそうとしている。しかし、近年の厳しい就労環境の中、こうした自己責任的な方策が有効であるかは疑問である。

(山梨総合研究所 研究員 河野恵市)