宝石の街甲府
毎日新聞No.228 【平成18年9月22日発行】
JR甲府駅前に「宝石の街甲府」の看板がある。駅前の目抜き通りにはジュエリー店は数店のみで、シャッターを下ろしている建物の方が目立っている。この光景(シーン)を目にすると、キャッチコピーはむなしい。
この夏、東京でジャパンジュエリーフェアが開催された。国内外の出展は約700社で、会場の3分の1のスペースが山梨の企業ブースであった。イベント会場では、硬質で純度の高いプラチナ合金(クーフー地金)の発表会が行われていた。
甲府を中心に約1000社の企業、8000人の従業員を抱えるジュエリー産業は県内最大の地場産業であるとともに、全国の宝飾品生産量の3分1を占める一大産業である。この地場産業の力をジャパンジュエリーフェアで実感した。
ジュエリー業者間では圧倒的な存在感を誇る山梨県の地場産業ではあるが、意外なことに、宝飾品が山梨県の特産品であることを知る人は少ない。県の調査によれば、首都圏の50歳以上の世代であっても、知っている人は4割程度で、若い人ほど認知度は低下する。その理由として、一般消費者と関係の薄い製造・卸売を中心とした業態であること、ショーケースの役割を担っていた地元を含む小売店の衰退などがあげられよう。
欧米ブランドとの競争やアジアでの製造拡大など、ジュエリー産業を取り巻く環境は厳しい。このため、ジュエリー産業のブランド力強化を目指し、ジャパンブランド育成事業が今年度スタートした。甲府商工会議所を中心に検討が進められているが、近い将来、魅力的な商品が広く国内外に紹介され、販売されることを期待したい。
現代の消費者は「自分を美的にするために、内面の幸せを求めて」物やサービスを消費する。小さくて、自分にとっては高価であるジュエリーであればなおさら、店舗のディスプレーやスタッフ、街や歩行者などの雰囲気すべてが消費の対象となり、街が高品位であるほど顧客満足につながる。
地域ブランド構築のためには商品の魅力とともに、人の魅力、地域の魅力づくりが不可欠である。「宝石の街」を標榜する甲府市には、訪問客の期待にたがわぬ洗練されたシーンづくり、高感度な街づくりを願いたい。
(山梨総合研究所 調査研究部長 中田裕久)