教育バウチャー制度
毎日新聞No.229 【平成18年10月13日発行】
先月、新内閣が発足した。新たな内閣は教育改革の目玉として、教育バウチャー制度の導入を提唱している。
バウチャーとは、いわゆるクーポン券のことである。教育バウチャー制度は、すべての家庭に教育用クーポン券を配布し、自由に学校を選択させ、券を受け取った学校はその枚数によって予算を受け取る仕組みのことをいう。
この制度によって、国や自治体から学校単位で配分されていた予算は、生徒単位で配分されることになる。学校は生徒の獲得をしなければ予算が確保できないため、競争原理が働き、教育の質の向上につながる。また、学校選択の自由が大幅に認められ、教育を受ける機会の平等を保障することにもなる。新内閣では、この制度の目的を「学校間競争による公教育の再生」としている。
しかし、学校側にしてみると、生徒数が予算額とリンクしているということは、生き残りをかけた生徒獲得合戦に身を投じざるを得ないことを意味する。競争が激化すれば学校間格差は広がり、最悪の場合、地域の拠点である学校が姿を消す可能性もある。また、地方においては学校間の距離が遠く、選択という行為が現実的でない地域も多い。こうした地域では、競争は成立しにくく、期待される効果が得られないという懸念もある。
こうしたさまざまな問題を引き起こさないためにも、バウチャー制度の導入に関してはその目的から十分な検討をする必要がある。わが国の現行制度では、学校に籍があるということにより、何らかの理由で学校へ通うことのできない子供たちの教育費が学校に配分され、執行されているという問題がある。当該生徒は教育費による恩恵を享受することができない状況にあるのだ。こうした一部の生徒に配布を限定し、「セーフティネット」としての活用を目的とすることも一つの考え方である。
既にバウチャー制度を導入している米国では、一定所得以下の世帯に対しての交付や、落第の評価を4年間のうち2年受けた公立学校に通う生徒に対しての交付など、生徒の救済を目的とした制度として機能している。
競争のための機能ではなく、こうしたセーフティネットとしての機能を期待したい。
(山梨総合研究所 研究員 中野一成)