甲府中心街再興の糸口
毎日新聞No.231 【平成18年11月10日発行】
いざなぎ景気超えといわれる我が国経済の好調さの影で、甲府中心街ではシャッターや空地が目立ち、いまだ再興の足音は聞かれない。
商工会議所によれば、週末の中心街の歩行者数はここ10年で半減した。背景には、自動車社会の進展による生活拠点の分散化、郊外化がある。往時には、甲府 中心街の商圏は長野県にまで及んだ。しかし、今では郊外への新たな商業施設の展開により、甲府中心街は県内ですら競争力を失っている。また、商業の停滞と 自動車社会の進展は、中心街から住む人をも奪い去り、直近5年間で、丸の内と中央の人口は1割以上減少した。
中心街の再興、イコール商店街の活性化という考え方もある。この考え方を否定するつもりはないが、甲府の現状を踏まえれば、「人の住む街」への脱皮が中心 街再興の鍵であると考えている。すでに甲府には、県都としての行政、医療、教育、公共交通、高速通信環境など、暮らしに快適さをもたらす社会基盤が、県内 どの都市よりも整っている。他都市との差別化に、この点を活用しない手はない。
このところ、中心街に何棟ものマンションが建設され、都市での暮らしが注目を集めている。住む人の増加は魅力的な商業施設を招き寄せ、商店街に活気をも たらす。さらに、マンションは居住空間の集約化というまちづくり上の利点を併せ持つ。例え同じ中心街からの住み替えであっても、それにより生み出される空 地を公園や緑地へと転換することで、住む街としての魅力を高めることができる。
更に、現在ほとんど顧みられない地域資源を用いて、胎動段階にある街中居住を後押しする方法がある。甲府中心街には、十数ケ所に及ぶ未利用の温泉源があ る。例えば、これらを活用した温泉付きマンションを供給することで、郊外での生活に不安や不満を感じるシニア層や富裕層に、都市空間での快適で健康的なラ イフスタイルを提案することが可能となる。
甲府のまちづくりで今最も重要なことは、「人の住む街」としての魅力を高めることだ。人や店舗、公共交通機関が消え去る前に、あらゆる資源を活用し、集中的にインフラ整備を進めるべきである。
(山梨総合研究所 主任研究員 藤波 匠)