教育基本法改正と地域


毎日新聞No.233 【平成18年12月22日発行】

 今年も早いもので師走を迎えた。師走は教師とは直接関係ないらしいが、去る15日に改正教育基本法が参院で与党の賛成多数により可決、成立した。制定以来、59年を経て初となるこの改正は「我が国と郷土を愛する」といういわゆる愛国心条項が加わったことが問題として報道などで論じられている。本稿では地域における教育行政の問題に絞って考えたい。

  そもそも今回の教育基本法改正は、その必要性が最後まではっきりしなかった。現在、30弱の「基本法」があるが、各基本法は「その分野における憲法」とも比ゆされるように、他の法律の上位法としての性格を有する。教育法制では、学校教育法や学習指導要領などの上位に教育基本法が位置づけられる。その基本法を改めるには幅広い国民の合意形成が大切だろう。しかし、同法のどこに改正しなければならない理由または重大な問題があったのか、十分に議論されたとは言い難い。
 さて、判然としない法改正ではあったが、これにより今後、多くの関連法や制度が見直されることとなる。地方の教育行政にも影響があると予想されるが、ここで教育行政における政治からの中立という問題について一点指摘しておきたい。
 第二次大戦後、教育は戦前の反省から、その中立性が求められた。過去、最高裁は76年に「教育的内容に対する(中略)国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」との解釈を示しているが、今回の改正で教育行政は法律により行われる(16条)と明記され、国による過度な介入についての裁量範囲は狭まることになった。しかし17条では、国に「教育振興基本計画」策定を義務づけ、自治体には国の計画を「参酌」し、地域における計画を定めるよう努めなければならないとした。

  地域における教育は中央省庁や政治からの中立性確保が大きな課題となる一方で、各自治体には自主・自律による機動性の高い教育行政運営が求められることとなる。優良教員の確保や家庭教育の問題など、現場で起こっている課題を十分に把握した上での計画的推進が必要であることはいうまでもないだろう。

(山梨総合研究所 主任研究員 家登 正広)