救急サービスの行方


毎日新聞No.234 【平成19年1月26日発行】

 救急車の出動回数が増え続けているという。05年の県内の消防車出動件数は3万3000件余りで、10年前に比べ5割増加した。1日平均91件、約16分に1回救急車が出動し、1年間に救急車で搬送された人数は県民の28人に1人に及ぶ。
 消防統計の分類では「急病」による搬送者が大きく増加しているが、実際には「歯が痛い」、「ペットが熱を出した」、「救急車で病院に行けばすぐに診てもらえる」などの安易な利用が相当数に上り、他県の事例では軽症者が約6割を占める。東京都医師会の調査では軽症者の3分の1は救急車の必要がない不適切な搬送だったという。

  必要なときに電話一本で救急車に来てもらえるのは、非常に心強いサービスであるが、必要性の基準が過度に拡大解釈されてきているようだ。
 消防法では、救急業務の対象を「生命に危険を及ぼすなど緊急に医療機関等に搬送する必要があるもの」とされている。しかし線引きが明確にできていないため、明らかに不適当と思われる場合でも万一に備えて現場に急行せざるを得ない。こうした通報が重なると、遠くの消防署などから救急車を派遣することになる。勢い通報から現場到着までの時間が延びてしまい、04年の県内平均は8.0分と、全国ワースト1位であった。心肺停止状態では1分1秒が生死を分けるだけに、深刻な事態である。
 不要不急の軽症者の救急要請を抑制する手立てとして検討されているのが、119番を受けた段階で容態に応じて緊急度・必要性を判断する「トリアージ」の実施である。救急対応にメリハリをつけるものであるが、まずは病院の場所が不明、あるいは救急車を呼んで良いかためらうような状況において適切なアドバイスが受けられる体制整備を急ぐべきだろう。

  また、不適切な要請に際しては救急隊員がき然とした対応がとれるよう、法的裏付けも必要である。基準の明確化だけでなく、横浜市のように罰金を含めた条例化を検討する自治体もでている。
 救急車は無料で使えるタクシーではない。真に必要な時に十分な救急サービスを受けられるよう利用者自身が心しなければならない。

(山梨総合研究所 主任研究員 柏木貞光)