公共サービスの担い手
毎日新聞No.241 【平成19年5月11日発行】
前の小泉内閣が推し進めた「官から民へ」の規制改革の下、その一つの手法として03年度に導入された「指定管理者制度」では、自治体の「公の施設」(住民が利用し、その福祉向上を目的とした施設)の管理・運営が民間企業などにも開放された。
これにより、例えば全国で初めて民間事業者(NPO法人)を公立図書館の指定管理者に選定した山中湖村では、夜9時までの開館や自動貸出システムなど、柔軟で多様なサービスの提供が実現されている。
同制度が本格運用に移行した06年9月時点での総務省調査によると、全国の約6万1000施設で指定管理者制度が導入され、うち2割弱の1万1000施設で企業やNPO法人などの民間事業者が指定管理者に選定された。
この割合を多いとみるか少ないとみるかは意見が分かれるところだが、自治体側でも財政難や人員削減圧力から、民間への包括的外部委託の流れは必然的なものととらえられているようだ。
また、06年7月には「公共サービス改革法」(市場化テスト法)の施行によって、民間事業者の創意工夫が期待できる業務について、行政と民間が対等の立場でサービス内容を競い合う制度も導入された。さらには、行政が行っているすべての業務に対して、委託や民営化の提案を募集する自治体も現れている。
ただし、一連の改革があまりに性急に進んでいるため、制度の後追いに精いっぱいの自治体も多いと思われる。その結果、短期的なコスト削減が優先され、公共サービスとしての本質的な議論が置き去りになっているのではないか。民間のビジネスとして委ねられる部分がどこまでなのかを、じっくり吟味する必要がある。
もちろん、包括的な外部委託といっても、行政は丸投げしておしまい、では済まない。むしろ、今まで以上にコストと利用者満足度の両立が図られるよう、事業評価(モニタリング)やマネジメント能力を養っていくことが求められる。
また、適正な公共サービスの担い手を育てるのは、利用者自身である。利用者側からの事業評価が成立し得るよう、事業スキームや事業者選定課程の透明化など、情報開示のあり方も問われる。
(山梨総合研究所 主任研究員 柏木貞光)