地域格差と納税制度
毎日新聞No.243 【平成19年6月15日発行】
「ふるさと納税制度」の創設が話題になっている。この税制は、個人住民税の一定割合を居住地ではなく、その人が育ったふるさとに納税することを選択できるという新しい制度である。10年ほど前から議論されていたが、にわかに導入が検討されるようになった背景には、都市部と農村部の格差問題がある。
国の政策が地方に責任と自立を求める姿勢を強める中で、地方交付税交付金の削減、公共工事の縮減などにより都市部に比べ、▽地方の景気回復の遅れがはっきりしてきた▽人口減少社会を迎える中で3大都市圏への人口集中傾向がはっきりしてきた▽「限界集落」といわれる65歳以上人口が50%を超える集落が目立ちはじめ、高齢化が深刻化してきた―ことなどがある。
石原慎太郎・東京都知事は、住民税は行政サービスを受ける住民が負担する「受益者負担の原則」から、居住地に納税するのが当たり前であると猛反発しているが、地方は、所得税を納めるようになった人を育てたのはその人のふるさとであり、果実だけを東京が独り占めするのはおかしい、一定割合をふるさとに納税するのは理にかなっていると反論している。納税者の立場としてはどうだろうか。「ふるさとは遠くにありて思うもの・・・」と言っていられるだろうか。
現在、県の65歳以上人口は22%である。早川町では50%に近づきつつある。腰の曲がった両親が、何とか田畑や山を守れるのもあと5年ぐらいで、10年とは持たないのではないか。独居老人の数がめっきり増え、集落崩壊が現実化してきている。東京の65歳以上人口は、現在16%ぐらいだが、15年後には23%になる見込みである。
いま県が抱えている問題は、15年後の東京の問題でもある。そのとき東京は高齢者の受け皿を用意できるだろうか。都市老人の惨めな姿が目に浮かんでくる。東京と地方という対立軸で税を奪い合うのではなく、人口減少社会、少子化社会、高齢化社会をどう乗り越えていくか、分配のあり方について共に考えるときではないか。総務省が年末の税制改正までにどのような方針を打ち出すか注目したいところである。
(山梨総合研究所 専務理事 早川 源)