精神障害の根本的予防を
毎日新聞No.247 【平成19年9月7日発行】
1984年から2万5000人前後で推移していた年間自殺者が、98年に初めて3万人を超えてしまった。以来06年まで、増減こそあれ3万人を割ることはなかった。このような状況に対して、06年10月、自殺の防止を図り、併せて自殺者の親族らに対する支援の充実を図るため「自殺対策基本法」が施行され、今年6月8日には「自殺総合対策大綱」が閣議決定された。
その中では、自殺は精神的な問題が引き起こすもので、社会的取り組みにより防ぐことができるとしている。
確かにWHO(世界保健機関)が「うつ病、アルコール依存症、統合失調症には有効な治療法があり、この3種の精神疾患の早期発見、早期治療に取り組むことにより自 殺死亡率を引き下げることができる」としていることからも、自殺を防ぐためには精神疾患に対する早期の発見・治療が有効なのであろう。
加えて、6月15日に閣議決定された「障害者白書」の中で、精神障害者の推定数が初めて300万人を突破した。このことに対し、内閣府は「社会全体のストレス過多と、精 神障害のクリニックの充実も患者数増加に影響している」と分析している。
クリニックなどにより、潜在的な患者を把握できるようになったということはとても重要なことであり、増加数すべてが新たな発病者ではないとはいえ、現在、社会のストレスなどにより300万人以上の人が心の不調を抱えている、ということは事実である。
となれば、精神障害にさせない環境づくりという根本的な予防策こそ、大切なのではないだろうか。このことについて「基本法」では、事業主の責務として「労働者の心の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるよう努めるものとする」とし、「大綱」では「長時間労働など社会的要因の背景にある制度・慣行そのものの見直しを進めることが重要である」としている。とても困難で時間もかかるだろうが、早急に具体策を講じ、継続的に推進することが必要である。いま、心の「癒し」を求める人たちのニーズが減ることが、社会的ストレスの減少を示す一つのサインになるのかもしれない。
(山梨総合研究所 研究員 中沢敏)