命を守る道具が増えた


毎日新聞No.251 【平成19年11月2日発行】

 緊急地震速報の一般向けサービスが、10月から始まった。この速報は地震の発生直後、震源に近い地震計の観測データを解析して震源や地震の規模、さらに各地への大きな揺れの到達時刻や震度を推定し、可能な限り素早く知らせる仕組みである。

  テレビやラジオをはじめ、携帯電話や防災行政無線など伝達媒体が順次拡大されていく。ただし、この速報についてはさまざまな課題も指摘されている。例えば直下型地震や震源が近い場合には、速報よりも早く地震の主要動(S波)が到達してしまう。たとえ地震前に受け取ったとしても、与えられる猶予はせいぜい数秒から数十秒といわれる。さらに伝達手段によってはタイムラグが生じる可能性もある。雷やプログラムの不具合などによる誤報の発生など、技術的な問題も多い。
 運用面においても、情報を受けた人と受けない人との「情報格差」、さらにその際の行動の違いがパニックや2次災害を発生させると懸念され受け手側の準備が十分でないとして、情報提供を先送りする自治体や事業者も多い。
 このように、緊急地震速報は決して万能な仕組みではない。それでもなお、巨大地震が自分の身に降りかかる前に、たとえほんの数秒であっても気構えと身構えができる時間が持てるということは、地震から身を守る準備ができる「可能性がある」という意味において画期的なことである。
 その特性を我々自身がよく理解したうえで、自宅、職場、外出先など、「このような状況ではどのように行動した方が良いのか、しなければならないのか」をあらかじめシミュレーションし、訓練しておくべきだ。自宅の耐震強度によっては、テーブルの下に隠れるよりも外に飛び出した方が良い場合もあるかもしれない。情報を知ったときに落ち着いて行動ができるよう、さまざまな状況設定に応じた訓練を積み重ねていくことも重要である。

  この数秒に何をすべきかをとっさに判断できるか、できないかが生死を分ける。命を守るための一つの道具として、緊急地震速報を有効に活用し、いつか来るであろう地震への備えを心掛けたい。

(山梨総合研究所 主任研究員 柏木貞光)