来る人、帰るが如し


毎日新聞No.253 【平成19年12月21日発行】

 二つの話を紹介したい。一つは、10月初旬、山梨で開かれた学会に青森からお見えになったHさんの話である。学会が終わって一杯やろうというとき、彼は開口一番「山梨学院大学の前で流しのタクシーを拾おうと30分も待ったが全く来ない、どうなっているのか、青森でもこんなことはないよ」と。
もう一つ、9月中旬、甲府商工会議所観光政策研究会に中国・成都市武侯祠博物館などの政府関係者をお招きしたときの話である。「成田空港の税関には中国語の案内がない、日本は観光立国などといっているが、我々を歓迎する気持ちなどないのではないか」と。山梨の印象はどうですかと尋ねると、お世辞かもしれないが「皆さんの歓迎ぶり、ホテルの案内やサービスには大変満足しました」と。

  さて、世界観光機関(WTO)は「21世紀は観光の世紀になる」と宣言している。中国人の海外旅行者数は00年時点で1,000万人程度だったが、20年には1億人になると予測している。13億の人口を抱える中国、10億人のインド、1.7億人のブラジル、1.4億人のロシアなどBRICs諸国の経済発展ぶりは目を見張るばかりで、この人たちが動き出したら大変な観光ブームになるだろう。
 観光が21世紀のリーディング・インダストリーの一つになることは間違いなさそうである。だが、官も民も受け入れ体制はほとんどできていない。最初の話は、タクシー業界と地域で開催された学会との連携の問題である。
 タクシー業界ではマナー教育などに力を入れている。学会では実りある学会運営に最善を尽くしているのだが、地域全体が連携して歓迎する横のネットワークがないということである。後者は、観光客の急増が予想される中国に対する観光行政の遅れの問題である。

 9月で終わったNHKの連続ドラマ「どんど晴れ」のなかで繰り返し紹介された旅館・加賀美屋の社是「来る人、帰るが如し」の通り、観光の原点は我が家に帰ってきたように迎えることから始まるのではないか。

(山梨総合研究所 専務理事 早川 源)