未婚晩婚のリスク
毎日新聞No.259 【平成20年3月28日発行】
最近、歌手の倖田來未さんの「35歳になると羊水が腐る」発言が問題となった。もちろん、35歳になると羊水が腐るなどということはないが、35歳以上で子供を産むことは医学的に高齢出産と呼ばれ、早産や染色体異常発生のほか、父母子ともにリスクが高まる。
全国の高齢出産の割合は、高度成長初期の1955年が約10%、安定成長初期の75年が約4%、現在の05年が約16%という推移をたどっている。戦後の経済成長を背景とした子育てコストの増大や家族計画の定着により高齢出産が控えられ、75年にはほぼボトムに低下したが、その後現在までの30年間では、晩婚化の影響などから高齢出産の比率は上昇傾向が続き、約4倍になっている。
全国の年間出生数は55年が約180万人、75年が約190万人、05年が約110万人であるから、高齢出産の数というのは、55年が約18万人、75年が約8万人、05年が約18万人である。高齢出産の率は増えたが、少子化の影響から、数では高度成長初期の55年並みに戻った状況である。ただし、医学的リスク認知の発展により、医療現場での負担は大幅に増加している。
団塊の世代が生まれた50年ごろでは、全国の高齢出産の割合は20%弱、年間出生数は約250万人で、高齢出産の数は実に約50万人であった。団塊の世代の方々の活躍ぶりを見ると、高齢出産も大きなリスクはなさそうであるが、子育て環境の変化など社会的リスクも加わっており、高齢出産に対するリスク認識はもっと深まるべきである。
今回の問題では、出産対象者の高齢出産に対するリスク認識が気になった。アンチエイジングなど外面的美しさを保つ方法は発達しても、年齢とともに身体は確実に老化する。一例として、老化は精子・卵子の機能低下を生み、妊娠もしにくくなる。
人生は常に得るものと失うものがあり、また元に戻ることもできない。今回の問題が、一歌手の失言に止まるのでなく、多くの人が経済以外の諸リスクを見つめ直し、より充実したライフプランを形成するきっかけになればと思う。
(山梨総合研究所 主任研究員 小笠原 茂城)