学術都市の可能性


毎日新聞No.260 【平成20年4月11日発行】

 昨今の明るい話題の一つが、山梨県が新エネルギーの研究開発の拠点になりつつあるということである。山梨大学の燃料電池開発には新エネルギー・産業開発機構の事業費補助が採択された。県と山梨大学は旧知事公舎を燃料電池の実用化のための研究開発センターとして整備する予定である。また、韮崎市には太陽電池の製造装置を開発・製品化する新会社が東京エレクトロンとシャープによって設立された。地元企業への効果的な技術移転によっては、新エネルギー産業の一大拠点が形成されることになる。

 グローバル化した産業社会では、新たなものを創造することが、競争に打ち勝つ条件である。現在、世界の各地域では大学の知的財産をいかに生かすかが共通の課題となっている。将来は、大学が地域最大の地域雇用の場となるかもしれない。
 ドイツ、アーヘン市は人口25万人、世界遺産の大聖堂とアーヘン工科大学で著名な都市である。500もの大学の建物は街全体に分散して目立たないが、大学がアーヘン市の最大の雇用主となっている。
 現在、ここで進められているプロジェクトは学生サービスセンターの設置、センターと大聖堂を結ぶ学術ルートの整備である。学術ルートをたどりながら、大学の研究や実験施設などを見て回るという趣向で、学術都市の側面をおおいにPRしようとするものである。
 第2が、大手エネルギー企業と大学との共同事業でエネルギーセンターを整備し、新講座の開設と研究活動を行うこと。もう一つのプロジェクトが20ヘクタールの新キャンパスを貨物駅跡地に開発しようとするもので、レストラン、コングレスセンター、各種店舗などを含み1万人の雇用が生み出されるという。
 
  甲府の街は比較的コンパクトであり、甲府駅から山梨大学まで約1.2キロ、徒歩でも15分である。北口には県立図書館の整備が予定され、NHKの移転によってメディアも集積し、舞鶴城公園も至近にあるという有利な条件を持っている。
 これら施設群を快適な歩行ルートで連絡することは十分可能である。学生、研究者、市民が行き交い、世界の研究者が交流する学術都市を思い描き甲府の街を見ると、明日につながる姿が見えてくると思われる。

(山梨総合研究所 調査研究部長 中田 裕久)